遺言コラム

公正証書遺言は19項目に効力あり!無効になるケースまで易しく解説

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公正証書遺言について
公正証書遺言は19項目に効力あり!無効になるケースまで易しく解説

「公正証書遺言で遺言を残したいけれど、どんな効力があるんだろう?」
「遺言を確実に家族に伝えてもらいたいけれど、公正証書遺言にはそこまでしっかりした効力があるの?」

今あなたは、「公正証書遺言」が一体どれぐらいの効力を持つものなのかよくわからず、悩んでいませんか?

結論からお伝えすると、「公正証書遺言」には以下19項目において法的な効力(遺言事項)があります。

【財産等に関すること】
信託の設定
②保険金受取人の変更
③一般財団法人設立のための寄付行為

【相続等に関すること】
④推定相続人の廃除・廃除の取り消し
⑤相続分の指定
⑥遺産分割方法の指定、⑦遺産分割の禁止
⑧特別受益の持ち戻し免除
⑨遺留分侵害額請求の負担方法の定め
⑩包括遺贈及び特定遺贈
⑪相続準拠法の適用について(※外国籍の方の場合)
⑫遺産分割における担保責任に関する別段の意思表示
⑬負担付遺贈の受遺者が放棄した場合の取り扱い
⑭負担付遺贈の目的の価額減少の場合の取り扱い
⑮祭祀の承継者の指定

【身分に関すること】
⑯認知
⑰未成年後見人の指定、⑱未成年後見監督人の指定

【遺言の執行に関すること】
⑲遺言執行者の指定又は指定の委託

財産や相続、身分や遺言執行についての詳細など、相続人にとってはどれも大変重要な事項ですが、実はこの19項目は「公正証書遺言」に限らず、その他種類の遺言(「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」)

でも同じ法的効力を持ちます

その中でも遺言が安全に公証役場に保管され、遺言者の死亡後、(最大)19項目に対しての遺言内容がきちんと実行される遺言形式は何かを考えた時、もっともお勧めなのは「公正証書遺言」だと言えるでしょう。

なぜなら「公正証書遺言」は、法の専門家である「公証人」の関与の元で作成する遺言書であるため、無効になる可能性が少ないからです(公正証書遺言であれば、必ず有効というわけではない点にも注意が必要です)。

さらに、公証役場にて原本が厳重に保管されるため、改ざんや盗難、隠匿、破棄されるリスクがもっとも少なく安全です。また「データ化」されて、検索できる制度もあるため、「有無について調べる方法が明確」という点があります。自筆証書遺言の場合は、遺言保管所に保管している場合を除き、発見されないリスクが存在します。

そこでこの記事では、上記で述べた19項目の遺言事項について、「公正証書遺言」にはどのような法的な効力があるのかという表現で具体的に紹介していきます。

その上で、他の遺言書と比べて「公正証書遺言」にはどのようなメリット・デメリットがあるのか、あなたの死後に、きちんと法的な効力が発揮できる遺言書の作成を行っていけるよう解説します。

今回の記事でわかること
・公正証書遺言で守られる内容
・3種類の遺言書の効力に関するメリット
・デメリットの比較・失敗のない公正証書遺言を負担なく作成する方法

この記事を読むことで、「公正証書遺言」ではどのような項目が法的効力を持つのかを知っていただき、取りこぼしのないよう遺言内容を作成できるようになりますよ。

ぜひ最後までお読みいただき、不安のない準備をしていきましょう!

1.公正証書遺言にはどんな効力があるのか?

公正証書遺言にはどんな効力があるのか?

冒頭でもお伝えしたように、3種類の遺言「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」には共通して、法律によって守られるべき次項が決まっています(これを「遺言事項と言います)

その中でも、「公正証書遺言」は安全に公証役場で原本が保管され、内容面においても無効になるケースが少ない、もっともお勧めできる遺言形式です。

1章では「公正証書遺言」のなかで法的効力を持つ19項目(遺言事項)について、詳しく見ていくことにしましょう。

1-1.財産に関する効力

財産に関する効力として、以下のような項目があります。

①信託の設定
②保険金受取人の変更
③一般財団法人設立のための寄付行為

上記の3つについて具体的に解説していきます。

信託の設定(信託法第3条第2号)

遺言者は、ご自身(委託者)の貴重な財産(金銭や不動産など)を信頼できる人(受託者)に移し、財産の管理または処分を依頼することができます。

受託者は、委託者の目的に沿う形で財産の管理または処分をしていく必要があります。

こうした行為を「信託」と呼びます。

信託には、「商事信託」と「民事信託」の2種類があります。
それぞれ財産管理を依頼する対象が異なります。

●商事信託⇒信託会社や信託銀行などが財産管理を行います
●民事信託⇒家族や親族が行うことが多いです

商事信託を選択した場合、しっかりした金融機関で財産を管理してくれるためとても安心ですが、費用がかかります。一方民事信託は、信頼のおける家族や親族が管理を引き受けるため、費用を定めないことが多いのです。

「信託」での財産管理を検討されている場合は、「商事信託」もしくは「民事信託」のうち、どちらを選択した方がご自身にとって安心できるのかをよく調べておくといいでしょう。

保険金受取人の変更(保険法第44条)

遺言者の保険金の受取人を、遺言によって変更することができます。

相続人のトラブルを避けるためにも、まずは自身の加入している保険の内容を把握し、必要ならば保険金受取人の変更を遺言書に明記するといいでしょう。

なお、遺言書で受取人を変更していたとしても、契約上の受取人から保険会社に請求があった場合、保険会社の立場からすれば、遺言の存在を確認する方法がありません。そのため、保険会社としては、遺言書で受取人を変更されていたとしても、そのことを知らずに契約上の受取人に保険金の支払いをしたとしても責めを追わないこととなります。このように、遺言書で受取人の変更が可能であると言っても、実務上はトラブルになる可能性が高いことから、原則として、ご生前のうちに保険会社へ連絡し、契約上の受取人も変更しておくことが望ましいです。

一般財団法人設立のための寄付行為(一般法人法第152条第2項)

財団法人とは、法人格を付与された「財団」のことであり、ある特定の個人や企業などの法人から拠出された財産で設立され、これによる金利・配当金及びその他の運用益を主たる事業原資として運営する法人のことを言います。株式会社等とは少し異なりますが、世界的に「ノーベル賞」で有名な「ノーベル財団」をイメージ頂ければわかりやすいかなと存じます。筆者は実務でまだ経験したことがないですが、身寄りのない資産家の方が、自らの遺産について、どこかの慈善団体に寄付するのではなく、自ら財団を作りたいと考える場合に、検討が必要となります。実際に、設立手続きは遺言者本人ができないので、遺言執行者を指定しておき、その遺言執行者が設立手続きを行います。

<参考条文:一般法人法第152条第2項>

(定款の作成)
第百五十二条 一般財団法人を設立するには、設立者(設立者が二人以上あるときは、その全員)が定款を作成し、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

2 設立者は、遺言で、次条第一項各号に掲げる事項及び第百五十四条に規定する事項を定めて一般財団法人を設立する意思を表示することができる。この場合においては、遺言執行者は、当該遺言の効力が生じた後、遅滞なく、当該遺言で定めた事項を記載した定款を作成し、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

3 第十条第二項の規定は、前二項の定款について準用する。

1-2.相続に関する効力

相続に関する効力としては、以下のような項目があります。

④推定相続人の廃除・廃除の取り消し
⑤相続分の指定
⑥遺産分割方法の指定、⑦遺産分割の禁止
⑧特別受益の持ち戻し免除
⑨遺留分侵害額請求の負担方法の定め
⑩包括遺贈及び特定遺贈
⑪相続準拠法の適用について(※外国籍の方の場合)
⑫遺産分割における担保責任に関する別段の意思表示
⑬負担付遺贈の受遺者が放棄した場合の取り扱い
⑭負担付遺贈の目的の価額減少の場合の取り扱い
⑮祭祀の承継者の指定

詳しく説明していきましょう。

推定相続人の廃除・廃除の取り消し(民法第893条,第894条2項)

自らの推定相続人に相続させたくないと思えるような行動があった場合、遺言書に書いておくことで、その推定相続人から相続権を消滅させることができる制度です。

なお、この規定を記載した場合は、遺言者が亡くなった後、「遺言執行者」が家庭裁判所で手続きをすることとなります。遺言書内で記載したからと言って、必ず認められるわけではない点にも注意しましょう。

また「廃除の取り消し」とは、上記のように相続権を消滅させられた相続人に向けて、再度相続権を持てるように復活させる制度です。

遺言で触れておくことで、一度「廃除」された相続人でも、再び相続できる権利を取り戻すことができます。

相続分の指定(民法第902条)

遺言書では、相続人の相続割合に差をつけることができます。

例えば「長女は3分の2、次女は3分の1」というように、同じ相続人で同順位の共同相続人であっても、その割合に差をつけることが可能です(このように指定した相続分のことを、「指定相続分」と言い、「法定相続分」と対比して使用する場合があります。)。また、実務上はあまり多くありませんが、相続分の割合を「第三者」に決めてもらうように指定することもできます。

遺産分割方法の指定、遺産分割の禁止(民法第908条)

遺言書ではまた、遺産の分け方(遺産分割の方法)を指定することができます。

例えば「土地Aは長男に、土地Bは次男に」といったように、誰がどの遺産をもらえるのか分け方を明記します。また、こちらも実務ではあまり多くありませんが、遺産の分け方を第三者に決めてもらうこともできます。

一方「遺産分割の禁止」とは、遺産の全部もしくは一部について分割をしないよう決める制度です。上限期間は、5年を超えない期間となっています。これも実務上ほとんど見かけることはありませんが、時間的猶予を与えることで、親族間での遺産相続争いを防ぐ効果が期待できるのではないでしょうか。

特別受益の持ち戻し免除(民法第903条第3項)

遺言者は、特別受益の持ち戻しについて免除する旨を遺言書に記すことができます。

「特別受益」とは、結婚や養子縁組、または生計の資本として生前に財産をもらっている(=贈与を受けている)こと等を指します。

相続人の中には、遺言者が生きている間にこうした「特別受益」を受けている人がいる場合もあります。そのため相続する際は、あらかじめもらっている分を考慮して法定相続分を修正することになります。このことを「特別受益の持ち戻し」と言います。

しかし遺言者が遺言を作成する際、「特別受益の持ち戻しを免除する」と書くことで、「特別受益」で財産をもらっていた相続人は、遺言者の死後に発生する相続分を、修正されないで済みます。
そのため遺言者として、「特別受益」を受けている相続人にも、「それはそれ」として考え、別途相続開始時点における遺産については、過去を考慮することなく、法定相続分はきっちり分けてあげたいとお考えならば、「特別受益の持ち戻し免除」を遺言書に盛り込むようにしましょう。

遺留分侵害額請求の負担方法の定め(民法第1047条第1項②)

遺言書では、相続人や受遺者等が「遺留分侵害額請求」を受けた際、受遺者が複数ある場合、その優先順位を指定することが可能です。

「遺留分(いりゅうぶん)」とは、民法上、最低限もらえる遺産の取り分のことを指します。この遺留分は、兄弟姉妹(第3順位)以外の法定相続人に認められています。

この「遺留分」を持っているにもかかわらず、相当する財産をもらえていない(「侵害」されている状況)相続人がいた場合、他の相続人等に対して、「遺留分侵害額請求」を主張することがあります。

その際、「遺留分侵害額請求」を主張する相続人からは、「遺留分」に相当する額まで金銭を請求される場合がありますが、補填する資金をどの遺贈からあてがうかについては、遺言者が遺言書で決めていきます。

遺留分を侵害する遺言書を作成する場合には、ここまで考慮して記載を検討しましょう。

<参考条文:民法第1047条第1項>
(受遺者又は受贈者の負担額)
第千四十七条 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。

二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

(以下省略)

包括遺贈及び特定遺贈(民法第964条)

遺言者は、遺産の割合や特定した遺産を、相続人以外の人にも譲り渡すと決めることができます。

ここで大切なのは、必ず遺言書にその旨を明記する必要があることです。

ここで使われている「遺贈(いぞう)」とは、遺言書によって財産を贈与することを指すため、遺言書での記載が必須なのです。

前者の「包括遺贈」とは、遺産を割合で指定して譲り渡すことを指します。
例)Aさんに遺産の2分の1を遺贈する

一方、後者の「特定遺贈」とは、特定した遺産を譲り渡すことを指します。
例)Aさんに不動産を遺贈する

両者の違いをしっかり区別しておかないと、遺言者の望み通りの遺贈ができない恐れがあります。遺贈で思わぬトラブルを抱えないように、この機会に「包括遺贈」と「特定遺贈」の違いを明確に理解しておきましょう。なお、相続人に対しても「遺贈する」という文言を使う場合があります(配偶者居住権の設定等)。この言葉の違いで、農地法上の農地転用許可の要否が変わるケースもあるため、このあたりが心配であれば専門家に相談するとよいでしょう(注意を要するケースでは、公証人から事前に指摘があるかもしれませんが、公証人の立場上、指導・助言ができる立場ではないため、公証役場で個別具体的な記載方法についてのご相談ができるわけではございません。)

相続準拠法の適用について(※外国籍の方の場合)

遺言者が日本に住む外国籍の方だった場合、相続のルールは原則として遺言者である被相続人の本国(遺言者が保持する国籍の国)に則ったものであると定められています(法の適用に関する通則法36条)。但し、相続に関連する様々な規定は、日本の民法で処理したいと望む場合があり、その場合は、相続準拠法を日本法とする旨の記載をすることで対応ができます。遺言者が「特別永住者」の方である場合によく用いられる遺言事項となります。

遺産分割における担保責任に関する別段の意思表示(民法第914条)

共同相続人間で遺産分割して第三者等に対する債権(お金を貸した場合の金銭債権等)を相続人の一人が相続した場合など、ある相続人の相続した債権等がなんらかの事由によって損害を受けてほぼ消失していたり、遺産分割後、回収できる前に、相手方である債務者の資力が著しく減少してしまった場合、その不足(棄損)した部分についてはm他の共同相続人たちで補填しあうのが原則です。しかし、遺言者は遺言書内で、この担保責任に関する異なる取り決めを記載することで、そのように担保責任を負わない等と決めることができるのです。この規定もなかなか実務では珍しいと思いますが、大きく価値の下落してしまうような第三者に対する債権等が遺産の中にある場合には、必ず検討するようにしましょう。

<参考条文:民法第911条~民法第914条>

(共同相続人間の担保責任)
第九百十一条 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。

(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)
第九百十二条 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。

2 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。

(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)
第九百十三条 担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。

(遺言による担保責任の定め)
第九百十四条 前三条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。

・負担付遺贈の受遺者が放棄した場合の取り扱い(民法第1002条但し書き)

負担付遺贈の目的の価額減少の場合の取り扱い(民法第1003条但し書き)

負担付遺贈とは、例えば、「●●●●の扶養義務を負う」や「先祖代々の祭祀財産の承継・管理義務を負う」などのなんらかの「負担」を付した遺贈のことを言います。単純な遺贈とは異なり、受遺者にはその名の通り「負担」が生じることから、受遺者は遺贈の放棄を選択することがあり、その場合の取り扱いを遺言書で指示することが出来ます。

「負担付遺贈」を行う場合には、これらの2つの規定も検討するようにしましょう。

<参考条文:民法第1002条・民法第1003条>

(負担付遺贈)
第千二条 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。

2 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

(負担付遺贈の受遺者の免責)
第千三条 負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

祭祀の承継者の指定(民法第897条第1項)

「祭祀(さいし)」とは、「系譜、祭具及び墳墓の所有権」を言い、お仏壇やご位牌、墓石等が当てはまります。これらは、民法上、相続財産とは切り離して考えられております。条文上は「遺言書で」とは記載されておりませんが、「被相続人の指定」は遺言書で行うことも可能と解釈されており、実務上も、遺言書内で祭祀承継者を指定することも珍しくありません。

<参考条文:民法第897条>
(祭祀に関する権利の承継)
第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

1-3.身分に関する効力

身分に関する効力としては、以下のような項目が定められています。

⑯認知
⑰未成年後見人の指定、⑱未成年後見監督人の指定

1つずつ見ていきましょう。

・認知(民法第781条第2項)

遺言では、婚姻関係にない夫婦の間に生まれた子(非嫡出子)を、父親が自分の子だと認めることができます。

これにより、父親と子どもの間には法律上の親子関係ができ、様々な権利や義務が生まれることになります。

生前に「認知」すると、その記録は認知者の「戸籍謄本(抄本)」に掲載されます。つまり、もし婚外子(いわゆる「隠し子」など)だった場合、その存在が生前の間に明らかになってしまうのです。

「自分の子であることは認めるけど、婚外子ができてしまったことは、どうしても家族に秘密にしておきたい。でもちゃんと任氏はしてあげたい。」というようなケースで、「遺言書で認知する」という必要性が生じます。筆者は、10年以上の実務委においても、このような事例に遭遇したことはありませんが、男女問題や離婚関係を専門にしている弁護士の先生だと、この遺言事項のご経験があるのかもしれません。

・未成年後見人及び未成年後見監督人の指定(民法第839条、第848条)

遺言では、「未成年後見人」と「未成年後見監督人」を指定しておくことができます。

「未成年後見人」とは、裁判所によると「親権者と同じ権利義務を有し、未成年者の身上監護と財産管理を行う」人のことを指します。よくある事例では、幼くして両親を亡くしてしまったケースで、養子縁組をすることなく、存命中の祖父母や叔父叔母が「未成年後見人」として選任されることがあります。また「未成年後見監督人」とは、未成年後見人を監督する人のことを指します。

遺言者は、両者を誰に指定するのか、遺言書で書き残すことで、遺された未成年の権利等がきちんと守られるように準備しておくことができます。これは、「18歳未満(未成年)の子を残してこの世を去らざるを得ない単独の親が遺言者の場合」に要検討となります。この規定があることで、面倒を見てくれる人が明確になるので、子どもからしても安心と言えます(この規定がなくても、事後的に家庭裁判所で選任されるので、人選を確定させる意味合いとなります)。

<参考条文:民法第839条・第848条>
(未成年後見人の指定)
第八百三十九条 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。

2 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。

(未成年後見監督人の指定)
第八百四十八条 未成年後見人を指定することができる者は、遺言で、未成年後見監督人を指定することができる。

1-4.遺言執行に関する効力

遺言執行に関する効力としては、以下のような内容が遺言事項として定められています。

⑲遺言執行者の指定又は指定の委託

早速見てみましょう。

遺言執行者の指定又は指定の委託(民法第1006条)

遺言者は、「遺言執行者」を誰に任せるのかあらかじめ遺言書の中で指定しておくことができます。または、「遺言執行者」を決めてくれるよう、第三者に任せることができます。

「遺言執行者」が決まっていれば、遺言はスムーズに執行され、確実に相続人へ通知されるので、相続人たちは時間も手間もかけずに相続手続きを進められることになります。

こうして見てみると、遺言事項には相続や財産についての重要なことが、数多く含まれていることがわかりますね。

さらに、身分に関することや遺言執行についても言及しており、財産・相続に関する事項と合わせて法的効力がしっかり発揮されていることが理解できるでしょう。

「自分の財産の場合はどうなんだろう?」
「相続について複雑な事情を抱えていて、結局効力があるのかよくわからない」

などお困りの場合には、一度法律の専門家に詳しくご相談された上で、遺言作成に臨まれることをお勧めします。

2.公正証書遺言とその他遺言との効力の違い

公正証書遺言とその他遺言との効力の違い

遺言書を残す場合は、もっとも確実性が高く安全な方法として「公正証書遺言」をお勧めしてきましたが、冒頭でもお伝えしたように、「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」であっても「1.公正証書遺言にはどんな効力があるのか?」でお伝えした19項目については、法的効力に変わりはありません。

とはいえ、その遺言が無事に執行されるのか、内容の改ざんや紛失、周りの人に内容を知られる可能性はあるのかなど、安全性や確実性の面では遺言形式によって多少の違いが出てきます。

一体どのように変わってくるのか、「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類を、それぞれ比較してみることにしましょう。

遺言書の種類による特徴と作成方法
種類 内容の法的な誤り 保管の安全性
公正証書遺言書
原則ない

高い
自筆証書遺言書
(本人保管)

ありうる

低い場合がある
自筆証書遺言書
(遺言保管所での保管)

ありうる

高い
秘密証書遺言書
ありうる

低い場合がある

こうして見ると、「公正証書遺言」がいかに安心して利用できるものなのか、一目瞭然ですね。

もちろん公証人を介して遺言書を作成するため費用はかかりますが、あなたの死後、遺言書に書かれた内容をきちんと遂行してもらうためには、公正証書で遺言を作成する方式が最善の選択であることがわかります。

さらに、各遺言書の詳しいルールについて、掘り下げて見てみましょう。

公正証書遺言 自筆証書遺言
(自分で管理)
自筆証書遺言
(遺言保管所保管)
秘密証書遺言書
作成方法 公証人と証人の前で遺言者が口頭した内容を公証人が筆記でまとめる 遺言者本人が自筆する 遺言者本人が自筆する パソコン・遺言者自筆・代筆などで作成する
本人の自筆 不要
(遺言者が署名できない場合は公証人の署名でもOK)
必要
(※財産目録等一部はパソコンでの作成が可能)
必要
(同左)
不要
(但し署名は遺言者の自筆必要)
遺言内容を
知っている人
本人+公証人+証人 本人のみ 本人と法務局
(遺言保管所)
本人
証人の必要性 証人が2人必要 不要 不要 証人2人以上必要
家庭裁判所の
検認
不要 必要 不要 必要
保管方法 公証役場
(正本謄本は自分)
自分で管理 遺言保管所
(法務局)
自分で管理
費用 作成費用(公証人手数料)がかかる 作成費用はかからない 作成費用はかからないが保管料(1件3900円)がかかる 手数料11,000円がかかる
遺言執行の
スムーズさ
遺言者の死後、スムーズに手続きに入れる 検認を経るため時間がかかる 遺言者の死後、スムーズに手続きに入れる 検認を経るため時間がかかる

それぞれの遺言書によって、細かいルールが異なっているのがわかりますね。

特に、「作成方法」や「保管場所」に注目してみると、遺言書の内容に不備が出ないかどうかや、安全に保管されるのかどうかなどの「安全性・確実性」について、より理解を深めることができるでしょう。

こうした情報を踏まえてそれぞれのメリット・デメリットでまとめると、以下のようになります。

メリット デメリット
公正証書遺言 ❶遺言内容に不備がない
❷改ざんや紛失のリスクがない
❸遺言執行がスムーズに行われる
❶作成費用(公証人手数料等)がかかる
❷打ち合わせや書類の提出などの手間がかかる
自筆証書遺言
(自分で管理)
❶作成費用がかからない
❷手間がかからない
❸遺言内容は本人しか知らない
❶遺言内容が無効になることもある
❷改ざんや紛失のリスクがある
❸検認手続きが必要になる
❹遺言書に気付かれない可能性がある
自筆証書遺言
(遺言保管所管理)
❶改ざんや紛失のリスクがない
❷遺言執行がスムーズに行われる
❶保管費用がかかる
❷手間がかかる
❸遺言内容が無効になることもある
秘密証書遺言 ❶遺言内容自体は本人しか知らない
❷遺言書の存在に気付いてもらえる
❶遺言内容が無効になることもある
❷改ざんや紛失のリスクがある
❸検認手続きが必要になる
❹手間がかかる
❺手数料がかかる

こうしてみると、スムーズな遺言執行まで辿りつくのにベストなのは、やはり「公正証書遺言」であることがわかります。

結論として、遺言に書かれた法的効力を最大限実現しようと考えるのであれば、多少費用や手間がかかったとしても、「公正証書遺言」を選ぶことをお勧めします。

3.公正証書遺言の効力期間

公正証書遺言の効力期間

日本公証人連合会によると、「公正証書遺言」の保管は、遺言者の死亡後50年と定められており、証書作成後140年、または遺言者の生後170年間は保存すると決まっています。

そうなると、「公正証書遺言」に書かれた遺言の法的効力に有効期限があるのかどうか、気になる方も多いのではないでしょうか?

「公正証書遺言」を含む遺言書には、有効期限はありません

そのため、遺言者が亡くなって時間が経過した後であっても、遺言に書かれている法的に守られる事項については、効力を持ちます。

また、遺言書を作成してからの有効期限もないため、極端な例では、20歳で書いた時の遺言が最後であり、80歳で死亡したとしても、その20歳で残した遺言書は無効であると考える特段の事情がない限り、有効と言えます(だからこそ、定期的な見直しが必要とも言えます)。

公正証書遺言には有効期限はない

但し複数の遺言が見つかった場合は、どうすればいいのでしょうか?

この場合は、遺言の形式にかかわらず、それぞれの遺言で内容が重複した場合、古い方は撤回されたとみなし、新しく作成された遺言の内容が適用になりますので注意しましょう(民法1023条1項)。

例えばこんな時はどうする?

遺言者Aさんから、息子と娘にあてた遺言が2通あったとします。

【息子にあてた遺言】
すべての預貯金とすべての不動産を「息子」に相続させる
(古い日付の遺言)

【娘にあてた遺言】
すべての預貯金を「娘」に相続させる
(新しい日付の遺言)

「すべての預貯金の相続」について、2つの遺言で内容が重複しています。この場合は、2通目の新しい方を有効とみなし、「娘」がすべての預貯金を相続することになります。

一方「息子」は、古い遺言の内容通りにはいかず、すべての不動産のみ相続することになります。

もっとも、このように2つの日付と内容が異なる遺言書が発見される場合は、親族間トラブルの発生確率が高くなります。解釈を巡って当事者間で意見が分かる場合もありますので、遺言者の方はこういったことが発生しないように注意しましょう。

4.効力のある公正証書遺言の作成は苦労が多い

効力のある公正証書遺言の作成は苦労が多い

「公正証書遺言」の効力についてお伝えしてきましたが、公証人と共に作成する「公正証書遺言」は専門家の関与がある分、一見は簡単に思えますが、実はとても大変です。

なぜなら、公証人はあくまで「役所」のような公的機関であり、遺言内容の意思形成に対しては関与できません(誰に対しても中立的な立場であることが求められます)。そのため、個別具体的なアドバイス等は期待できないためです。

そのため、遺言書の記載の中身についてはあくまでも遺言者が整理してまとめなければならないため、遺言したい内容が多ければ多いほど、混乱してしまい、記載ミスや判断ミスが起こりがちだからです。

特に、証人2名を自ら用意したり、公証役場とのやりとりが発生する「公正証書遺言」を無事最後までやり通すには、様々な「大変」が伴います。

・公証役場に提出する必要書類を揃えるのが大変
・相続人および相続内容をきちんと把握するのが大変
・遺言の文言を一から作成するのが大変
・公証役場との打ち合わせが大変

参考までに、ここでは「公正証書遺言」を作ろうとした時に起こりうる面倒をご紹介します。

事前に理解しておくことで、心の準備をしておきませんか?

4-1.公証役場に提出する必要書類を揃えるのが大変

公証役場に提出する必要書類を揃えるのが大変です。

公証役場に届ける書類としては、以下のものがあります。

公正証書遺言を作る際必要な提出書類
遺言者本人に
関する書類
・実印・印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
・戸籍謄本(発行から3ヶ月以内のもの)
推定相続人に
関する書類
・遺言者本人と推定相続人との関係がわかる戸籍謄本
(発行から3ヶ月以内のもの)
遺贈を受ける人に
関する書類
・遺贈を受ける人の住民票又は戸籍抄本の附票
(発行から3ヶ月以内のもの)
不動産を相続する
場合の書類
・登記事項証明書
・直近年度の固定資産税評価証明書(または納税通知書の課税明細書等)
預貯金や有価証券を
相続する場合の書類
・銀行名や口座番号がわかるもの
・証券会社や証券番号がわかるもの 
証人に関する書類 ・住所、氏名、生年月日、職業を記載したもの

このうち、不動産に関する「登記事項証明書」や、戸籍に関する「戸籍謄本」など、入手するまでに手間のかかる書類に関しては、平日仕事をされている方にとってはとても大変な作業です。

しかも、どの書類も「発行から3か月以内のもの」と定められているため、うっかりすると期限を過ぎてしまう可能性もあり、注意が必要です。

4-2.相続人および相続内容をきちんと把握するのが大変

相続人および相続内容をきちんと把握するのが大変です。

相続人や相続内容については、あらかじめ法で決められていますが、その詳細を自力で理解し把握するのはなかなか骨が折れるでしょう。

素人が一朝一夕で正確な情報を収集するには、時間的な制約や能力的な限界があるため、やはり相続問題に長けた専門家がいると安心です。

4-3.遺言の文言を一から作成するのが大変

遺言の文案を一から作成するのが大変です。

遺言には、いくつか明記しておかなければならない事項があります。

例えば、

・作成した年月日
・遺言者の署名
・押印

などがなければ無効になってしまいますし、相続財産の目録の作成、相続人や遺贈を受ける人の情報なども必要です。

さらに、一度書いた文章を修正したい場合の対応など、細かいルールもあるため、内容に不備がないよう文面を起こしていくのは、手間と時間がかかるでしょう。

4-4.公証役場との打ち合わせが大変

「公正証書遺言」を作成するにはあたっては、公証役場との打ち合わせが不可欠ですが、慣れない方にとっては大変です。

また、公証役場へ資料の郵送や持参する必要性が生じる場合があります。

このような場合も、ひとつひとつ対応しなくてはならないため、負担が大きくなります。

5.思い通りの相続をしたいなら迷わずプロに任せよう

思い通りの相続をしたいなら迷わずプロに任せよう

「公正証書遺言」の作成にあたっては、「4.効力のある公正証書遺言の作成は苦労が多い」でもお伝えした通り、様々な労力が伴います。

毎日多忙に過ごしている方が、十分な時間を取って遺言書を準備するには難しい面もあるかもしれませんね。

そんな時は迷わず、プロへ相談しませんか?

「遺言シェルパ」を運営する行政書士法人エベレストでは、「公正証書遺言」を作成する際に生じる様々な問題に対して、次のように対応させていただきます。

5-1.必要書類の収集をサポートします

「公正証書遺言」作成にあたり、必要になる書類収集をサポートします。

4-1.公証役場に提出する必要書類を揃えるのが大変」でも触れたように、「公正証書遺言」作成には遺言者の戸籍謄本や、不動産に関する「登記事項証明書」の取得など公的な書類が必須になります。

しかし、特に戸籍謄本などに関しては、遺言者の状況によっては何箇所もの市町村に連絡をし、それぞれの窓口と連絡を取り合いながら、正しいものを収集しなければなりません。

とても手間や時間のかかる作業であるため、間違いなく書類を入手するためにもぜひプロにお任せください。

※なお書類の取得にあたっては、遺言者ご本人の委任状を頂きます。
※こちらはオプションサービスとして、選択いただけます。

5-2.「公正証書遺言」の記載事項を考えます

遺言者様から聴取した遺言内容を踏まえて、「公正証書遺言」の記載事項を要約し、遺言者様に代わって起案し、遺言書としての体裁を整えます。

「公正証書遺言」に記載する事項は、決して不備があってはならないものです。

きちんと遺言内容が効力を発揮できるよう、失敗のない文案をアドバイスさせていただきます。

5-3.公証役場との打ち合わせを代行します

公証役場との打ち合わせを代行します。

現在、公証役場は全国に約300か所ありますが、原則として依頼者様の住所からもっとも近い公証役場にて打ち合わせを行います。

その際、遺言者ご本人は、遺言書を作成する当日のみ、公証役場へおいでいただければ問題ありません。その他の書類持参や郵送などについては代行させていただきますので、時間に縛られることなく「公正証書遺言」の準備を進めていただけます。

6.まとめ

今回は、公正証書遺言の効力についてご紹介してきました。

公正証書遺言の効力が関係してくる遺言内容(=遺言事項)は以下19項目です。

【財産等に関すること】
信託の設定
②保険金受取人の変更
③一般財団法人設立のための寄付行為

【相続等に関すること】
④推定相続人の廃除・廃除の取り消し
⑤相続分の指定
⑥遺産分割方法の指定、⑦遺産分割の禁止
⑧特別受益の持ち戻し免除
⑨遺留分侵害額請求の負担方法の定め
⑩包括遺贈及び特定遺贈
⑪相続準拠法の適用について(※外国籍の方の場合)
⑫遺産分割における担保責任に関する別段の意思表示
⑬負担付遺贈の受遺者が放棄した場合の取り扱い
⑭負担付遺贈の目的の価額減少の場合の取り扱い
⑮祭祀の承継者の指定

【身分に関すること】
⑯認知
⑰未成年後見人の指定、⑱未成年後見監督人の指定

【遺言の執行に関すること】
⑲遺言執行者の指定又は指定の委託

財産や相続などお金にまつわることや、身分、遺言執行に関する詳細など、遺言者が残すべき重要な事柄については、法的効力でもって守られていることをお伝えしました。

また、その効力を最大限生かすためには、「公正証書遺言」で遺言を作成した方がいいでしょう。なぜなら、他の遺言形式で作成してしまうと、安全性や遺言を実行する確実性に不安が残るからです。

その根拠として、それぞれの遺言形式についての比較もおさらいしておきましょう。

遺言書の種類による特徴と作成方法
種類 内容の法的な誤り 保管の安全性
公正証書遺言書
ない

高い
自筆証書遺言書
(本人保管)

ありうる

低い場合がある
自筆証書遺言書
(遺言保管所での保管)

ありうる

高い
秘密証書遺言書
ありうる

低い場合がある

上記をご覧いただくとわかるように、遺言を確実に残し、その効力を発揮してもらうためには「公正証書遺言」がお勧めです。

遺言を作成される際は、ぜひ検討してみてくださいね。
本記事が、あなたの遺言作成に少しでもお役に立てれば幸いです。