公正証書遺言の正本とは|「原本」「謄本」との違いと適切な管理方法
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「公正証書遺言の『正本』は、何に使うものなのか」
「遺言者である自分は、『正本』と『謄本』のどちらを持っておくべきなのだろう」
公正証書遺言を作成すると、『原本』と『正本』と『謄本』の3種類が完成します。
このうち、『原本』は公証役場で保管しますが、『正本』と『謄本』は遺言者に渡されます。
見た目にほぼ相違がないこのふたつの公正証書遺言ですが、名前が違うだけに、その役割や効力もやや異なります。
『正本』とは『謄本』の中で唯一法的効力を与えられたもので、遺言者の存命中に、遺言者本人または正当な代理人によってしか再交付してもらえません。
『正本』を持っておくべき人と保管場所を誤ると、せっかく作成した公正証書遺言の内容が円滑に執行できず、相続手続きがスムーズに進まないこともあるのです。
ただし、手続きによっては、『謄本』でも可能だとしている機関もあります。
この記事では、公正証書遺言の『正本』についてわかりやすく解説しながら、遺言を確実に執行するための保管方法や、紛失時の対処法など、遺言者のあなたにとって必要な情報を詳しくお伝えしていきます。
本記事のポイント |
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□ 公正証書遺言の「正本」について知ることができる □ 公正証書遺言の「原本」「正本」「謄本」の内容について知ることができる □ 公正証書遺言の「正本」が必要になるケースを知ることができる □ 公正証書遺言の「正本」の管理についての注意を知ることができる □ 公正証書遺言の「正本」を紛失や汚損した場合の対処法を知ることができる |
この記事を読むことで、公正証書遺言の『正本』を適切に管理し、スムーズな遺言執行を果たすことができます。
1.公正証書遺言の「正本」とは
公正証書遺言を作成すると、公証人から交付される「正本」と「謄本」を1部ずつ持ち帰ります。
どちらも非常によく似ていて、表面に押された印章以外にぱっと見て違いはないように見えます。
むしろ「正本」には、せっかく記した署名と実印による押印がないことから、単なる「控え」のように思う方もいるかもしれません。
しかしこの「正本」こそが、遺言者の死後の相続手続きで必要になる、最重要書類なのです。
公正証書遺言の「正本」がどのようなものなのか、原本や謄本との違いも含めてわかりやすく見ていきましょう。
1-1.公正証書遺言の正本は遺言者の意思そのもの
公正証書遺言の正本は、原本と同じ効力を持つ書類です。
国語辞典を見ても、「正本(せいほん)」について、以下のように法的に効力を保証されている複製書類であることが記されています。
“① 法令の規定に基づき、権限のある者によって作成された謄本で、原本と同一の効力を有するもの。判決正本・公正証書正本など。〔仏和法律字彙(1886)〕
② 戸籍の原本に当たるもの。※戸籍法(明治三一年)(1898)一一条「身分登記簿の正本は」
③ 転写あるいは副書したものの原本。しょうほん。〔出三蔵記集‐八・維摩詰経序〕④ ⇒しょうほん(正本)”
精選版 日本国語大辞典より
公証役場で保管される原本は、遺言者と証人がその手で署名押印した現物で、ごく限られた場合を除いて公証人役場の外に持ち出すことが禁止されています。
しかし、公証人役場の外に持ち出せないのでは、遺族などが相続の証明書として使うことができないため、この原本とまったく同じ効力を与えられた複製書類を持ち帰るのです。
公正証書遺言の正本は、持ち出すことのできない原本の代わりに、相続についての遺言者の意思を伝える遺言書そのものと言えます。
1-2.公正証書遺言の原本と謄本との違い
公正証書遺言を作成した際に完成した3つの種類の書類「原本」「正本」「謄本」について、それぞれどのようなものなのか、一覧で比較して見てみましょう。
公正証書遺言の3種類の書類 | |||
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原本(げんぽん) | 正本(せいほん) | 謄本(とうほん) | |
作成時の所在 | 公証役場 | 遺言者 | 遺言者 |
管理すべき者 | 公証役場 | 遺言執行者または相続人 | だれでも |
法的効力 | ある | ある | ない (あくまで写し扱い) |
再発行 | できない | できる | できる |
それぞれ詳しく内容を見てみましょう。
1-2-1.公正証書遺言の原本とは
公正証書遺言の原本とは、相続についての遺言者の意思を記した文書に、遺言者本人と証人2名、さらに公正証書遺言を作成した公証人が、それぞれに署名押印をしたものです。
オリジナルの書面であり、この世の中にひとつしか存在しません。
作成した公証役場で厳重に管理され、外部に持ち出すことも、同じものを作成することもできないため、紛失や改ざんのリスクがありません(限りなくリスクが少ない)。
公証役場の中で、遺言者の死亡後50年、証書作成後140年または遺言者の生後170年間保存されます。(※公証人法施行規則27条:特別の事由により保存の必要性があるときに該当)
なお、公正証書遺言の場合、正本を交付している事実についても原本に記載されます。
1-2-2.公正証書遺言の正本とは
先にもお伝えした通り、公正証書遺言の正本とは、持ち出すことのできない原本の代わりに、法的な効力を与えられた複製(=広義の謄本)です。
正本は広義で謄本の一部ですが、正本には、それが正本であるという旨が記載されています。それにより、ほかの謄本とは異なる、法的効力を携えた書類になっています。
正本には、原本に記した署名押印はありません。
実印を押した部分には「印」という記載があるため単なる控えと思われがちですが、これは「原本にはその位置にきちんと印鑑が押してある」という意味です。
紛失した場合は遺言者本人または正当な代理人の申請によって再発行ができますが、複数枚または複数回の請求には、相応の理由が必要になります。
1-2-3.公正証書遺言の謄本とは
公正証書遺言の謄本とは、端的に言って「原本の写し」です。
記載された事実内容を確認するためのものであり、謄本には、それが謄本であるという旨が記載されています。
実際のところ、金融機関によっては謄本でも手続き可能なところが多々ありますが、厳しい手続き先では、「正本」を求められ、「謄本」では手続きができません。
「正本を遺言執行者に渡したが、実際にその通りに執行してくれるのか」という不安がある場合には、執行者以外にも謄本を渡しておき、遺言内容がきちんと執行されるかどうかを確認してもらうと安心です。
公正証書遺言の謄本は、相続人や受遺者などの利害関係者でも、遺言者の死後であれば発行申請ができます。
2.公正証書遺言の「正本」や「謄本」を使う場面
公正証書遺言の「正本」は、遺言者ではなく、相続する人または指定した「遺言執行者」が遺言者の亡き後に手続きの場面で使用するものです。
実際の手続きでは、公正証書遺言の正本のほかにも用意すべき必要書類があるため、正本を渡す相手の方に、このページの内容も合わせて共有しておくと安心です。
2-1.預貯金の引き出しや解約、名義変更をする時
預貯金相続について公正証書遺言がある場合、公正証書遺言の正本をそのまま金融機関に持って行きます。
預貯金の口座名義人が亡くなると、口座にある資産は遺産(預貯金債権)として、遺産分割協議の対象財産となります。
なお、余談にはなりますが、最高裁判所で判例変更があるまでは、普通預金等の預貯金債権は、金融機関に対する「可分債権」として、相続開始と同時に共同相続人へ分割承継される(=共有状態にはならない)、それゆえ遺産分割協議の対象にならない、とされていました。
しかし現在は、判例変更がなされ、「遺産分割協議の対象になる」とされています。ここでは結論だけ覚えておけば大丈夫です。
そのため、一部の相続人が亡くなった方の口座から勝手にお金を引き出したり使ったりないよう、金融機関は口座を凍結して取引を停止させます。口座が凍結されている間は、引き出しも入金もできなくなるのです。
この口座凍結を解除し、正当な相続人であることを証明するため、以下の書類が求められます。
預貯金の解約や名義変更に必要な書類 |
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□ 公正証書遺言(正本または謄本) □ 相続手続き依頼書(銀行備え付け) □ 印鑑届(銀行備え付け・名義変更の場合) □ 預貯金通帳またはキャッシュカード、貸金庫の鍵 □ 被相続人の戸籍謄本または除籍謄本(亡くなったことが証明できるもの) □ 相続人の戸籍謄本(※抄本でも可) □ 相続人又は遺言執行者の印鑑証明書(原本) □ 受遺者(相続人以外)又は遺言執行者の印鑑証明書(原本) など |
参考:全国銀行協会
公正証書遺言の正本には実印による押印がないことから、金融機関の窓口担当者の経験が少ない場合には「実印のあるもの」を求められることもあるようですが、その際には落ち着いて「正本」こそが法的効力のある書類であることを伝え、上役の指示を仰ぐように伝えてください。
なお、金融機関によっては、「正本」と「謄本」のどちらでも手続きしてくれるところがあります。事前に金融機関のwebページなどで確かめてから足を運んでください。
2-2.土地や建物の相続登記をする時
土地や建物などの「不動産」の相続による名義変更をする際に必要な手続きが「相続登記」と呼ばれる手続きです。例えば遺言者の名義になっている不動産の名義を、相続・遺贈する人の名義に変更する手続きです。
この手続きにより、不動産の所有者が移転し、新たな所有者へと変更し、第三者に対して所有権を主張することが可能となります(登記はあくまで対抗要件であるため、登記しないと所有権が移転しないわけではないことにもご注意ください)。
不動産の所有権移転に必要な書類 |
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□ 公正証書遺言(正本または謄本) □ 所有権転移登記申請書 ※難しい場合には「司法書士」への依頼がお勧め □ 被相続人の戸(除)籍謄本及び住民票の除票の写し(亡くなったことが証明できるもの) □ 不動産の権利を承継する相続人又は受遺者の戸籍謄本 □ 不動産の権利を承継する相続人又は受遺者の住民票(又は印鑑証明書) ※原則として、登記識別情報の添付は不要です。 |
参考:法務局
公正証書遺言がある場合の、法務局指定の登記申請書と記載例は、以下のリンク先から取得・確認できます。
3.公正証書遺言の「正本」と「謄本」の管理
1-2.公正証書遺言の原本と謄本との違いでもお伝えしましたが、公正証書遺言の正本と謄本は管理する人や場所に注意し、分けて持っておきます。
「正本」と「謄本」、それぞれだれが管理し、どんな場所で保管しておくのがいいか、詳しくお伝えしていきましょう。
3-1.公正証書遺言の「正本」の管理
公正証書遺言の「正本」は、遺言者が署名押印した遺言書原本の「複製」の中で、唯一法的な効力を与えられているものです。
前述の通り、手続き上は「謄本」でできる場合が多く、効力としての差異はほとんどございません。
なお、遺言者の存命中は、遺言者本人または委任状を持った正当な代理人の申請によって再発行もできますが、複数回または複数枚の発行には、相応の理由を求められます。
公正証書遺言の正本を管理するのがふさわしい人と場所について、それぞれお伝えします。
3-1-1.公正証書遺言の「正本」を管理するのがふさわしい人
法的効力を与えられた公正証書遺言の正本は、遺言執行者または相続人が管理します。
遺言者の死後、早い段階から相続手続きが開始できるのは、公正証書遺言の大きなメリットのひとつです。
そのメリットを最大限に活かせるよう、公正証書遺言の正本は、作成後すぐに遺言執行者または相続人に渡して、適正な管理をお願いしましょう。
3-1-2.公正証書遺言の「正本」を管理するのがふさわしい場所
法的効力を備えた公正証書遺言の「正本」は、遺言者であるあなたの死後、あなたの意思を伝える確かな書類です。
重要書類として、安全かつ遺言者の死後すぐに取り出せる場所に管理することをお願いしてください。
【ここだけはダメ!公正証書遺言の正本を置いてはいけない場所】
遺言者名義の銀行の貸金庫には、公正証書遺言の正本や謄本を保管しないようにしましょう。
公正証書遺言で指定した遺言執行者または貸金庫を相続した相続人は、遺言者の貸金庫についても、もちろん手続きを踏んで開ける権利があります。
しかし、指定された遺言執行者または相続人であるという事実が記されている公正証書遺言の正本や謄本そのものが貸金庫の中にあったのでは、貸金庫を開けることはできません。
遺言者が、貸金庫を開けるための代理人を生前に定めている場合もありますが、この代理人の権限は貸金庫の名義人が生きている間に限られており、名義人が死亡してからは、代理人が貸金庫を開けることはできなくなるのです。
相続人全員の立ち会いや署名押印をした同意書を持って開けることもできますが、この場合は中身を確認するだけで、持ち帰ることはできないことも多いです。
せっかく作成した公正証書遺言の利点を無駄にしないためにも、公正証書遺言の正本や謄本は、遺言者名義の貸金庫にだけは置かないようにしてください。
「車のカギを、車のトランクの中においたまま閉めてしまった」ようなイメージだとわかりやすいかもしれません。トランク内にあっても、カギを開けるために使えなくなってしまうのです。
3-2.公正証書遺言の「謄本」の管理
公正証書遺言の内容の写しである謄本は、基本的にはだれが管理してもかまいません。
内容の確認として、作成した遺言者自身の手元に置いておくのが一般的です。
以下のように資産内容や遺言者の考え(心情の変化含む)に変更・変化があり、遺留分等にも大きな影響が出てくるような場合は、遺言内容についても変更や追加などが必要になります。
そのためにも、遺言者自身のお手元に置いて、定期的に内容を確認しておくことをおすすめします。
・不動産の価値が大きく変わった
・不動産を生前に売却することとなった
・株価が大きく変動した
・財産を承継させたい方が、遺言者よりも先に亡くなってしまった
・「その他一切の財産」が激増または激減した 等
4.公正証書遺言の「正本」を紛失・汚損した場合の対処法
公正証書遺言の「正本」を、紛失したり汚損して内容の確認ができない状態になったりした場合には、作成した公証役場で再発行の請求をすることができます。
ただし、法的な効力を備えた書類のため、公正証書遺言の正本の再発行には、請求人の条件や書類などが必要になります。
どんなものが必要になってくるのか、詳しくお伝えしましょう。
4-1.再発行の請求ができる人
公正証書遺言の「正本」の再発行請求は、遺言者本人または遺言者からの委任を受けた代理人しか行うことができません。
遺言者からの委任状を持って代理人が手続きする場合でも、遺言者本人に請求の意思について公証役場から確認が行くことがあります。
なお、「正本」ではなく「謄本」であれば、遺言者の死後においてのみ、相続人や受遺者、遺言執行者などの利害関係者でも請求することができます。
4-2.再発行の請求に必要な書類
公正証書遺言の正本の再発行請求には、以下の書類が必要になります。
公正証書遺言の「正本」の再発行請求に必要な書類 | |
請求者 | 必要書類 |
遺言者本人 | 本人確認資料 |
代理人 | ・遺言者本人からの委任状 ・遺言者の印鑑証明書(原本) ・代理人の本人確認資料 |
4-3.再発行の手数料
公正証書遺言の正本の再発行にかかる手数料は、以下の通りです。
請求する公正証書遺言の枚数につき250円
通常の公正証書遺言の場合は2〜3枚で収まることが多いため、500~750円程度の手数料がかかります。
財産内容の項目数や相続人数が多い場合や、付言事項が長い場合には、枚数が多くなるためこの限りではありません。
まとめ
今回は、公正証書遺言の「正本」について、詳しくお伝えしました。
公正証書遺言の「正本」とは、以下のようなものです。
公正証書遺言の「正本」とは |
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□原則として 相続手続きで相続人または遺言執行者が使うが、「謄本」でも承継手続きができるところがほとんどなので、「正本」と「謄本」の実務上の大きな差はない。 □ 遺言者名義の銀行の貸金庫には、公正証書遺言の正本や謄本を保管しないように注意 □ 「遺言書正本の再発行」は遺言者本人または委任状を持った代理人にしかできない |
この記事により、公正証書遺言の「正本」や「謄本」について正しく理解し、適切な管理によってあなたの意思が残される人たちに届きますように。