公正証書遺言の見本|実際にプロが作成した公正証書遺言の見本を公開
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- 公正証書遺言について
「公正証書遺言はどんなことを書くものなのか、見本を見てみたい」
「公正証書遺言というと、自筆のものとどう違うのだろう」
公正証書遺言は、遺言者本人が公証人に口頭で遺言内容を伝え、それを元に公証人が作成し、内容について間違いがないことを遺言者及び証人2名にも確認してもらって作成する方式の遺言書です。
遺言者本人が自筆する煩わしさがなく、また作成過程で公証人という法律のプロフェッショナルが関与し、利害関係のない証人2名も立ち会って作成されている遺言だからこそ、公正証書遺言は内容の法的な誤りがなく、安全で信頼性の高いものとされています。
どのような構成になっていて、具体的にどのように自分の遺言が記載されるものなのか、見本をみて確認していきましょう。
本記事のポイント |
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□ 公正証書遺言の見本を見ることができる □ 公正証書遺言の具体的な構成を知ることができる □ 公正証書遺言の具体的な文例を知ることができる □ 公正証書遺言の作成の流れを知ることができる □ 公正証書と自筆証書との違いを知ることができる |
この記事を読むことで、公正証書遺言を安心して作成することができます。
1.【見本】公正証書遺言のよくある3つのケース
公正証書遺言は、公証人と呼ばれる、長年に渡り裁判官や検察官として法律実務にかかわった人の関与の下で作成される文書です。
ふだん、あまり目にする機会のない公正証書遺言の作成をお考えの方のために、公正証書遺言を書いておいた方が良い以下の3つのケースについて、見本をご紹介します。
- 配偶者にすべての財産を承継させる場合
- 配偶者と子一人に財産を分配し、配偶者には、さらに「配偶者居住権」を与える場合
- 未婚で子どもがなく、飼っていたペットの飼育者(等の第三者)に財産を贈る場合
もちろん、上記以外のケースでも、公正証書遺言は安全で確実な資産承継の手立てとなりますので、大切な人を無用な親族トラブルに巻き込まないよう、公正証書遺言の作成をおすすめします。
1-1.配偶者にすべての財産を承継させる場合
結婚していても子どもがいない場合、法定相続割合として、配偶者に3分の2、存命している父母が残りの3分の1(父母の双方が存命している場合は、それぞれ6分の1ずつ)と規定されています。
また、被相続人の父母や祖父母もすでに他界しており、兄弟姉妹がいる場合は、遺産は配偶者に4分の3、被相続人の兄弟姉妹が残りの4分の1の法定相続割合とされています。
このような状況において、遺言者の最終意思として、「配偶者にすべての財産を承継させたい」場合は、以下のような公正証書遺言を遺しておくと安心です。
令和◯年第0000号
遺言公正証書
本職は、遺言者◯◯◯◯の嘱託により、証人◯◯◯◯、同◯◯◯◯の立会いの下に遺言者の口述を筆記してこの証書を作成する。
第1条 遺言者は、遺言者の有する次の財産を含むすべての財産を、遺言者の妻(夫)◯◯◯◯に相続させる。
(1)不動産
ア 土地
所 在 愛知県名古屋市◯◯区◯町◯丁目
地 番 ◯番◯
地 目 宅地
地 積 ◯◯.◯◯㎡
イ 建物
所 在 愛知県名古屋市◯◯区◯町◯丁目◯番地◯
家屋番号 ◯番◯
種 類 居宅
構 造 木造瓦葺2階建
床 面 積 1階 ◯◯.◯◯㎡
2階 ◯◯.◯◯㎡
ウ 敷地権付き区分建物
(一棟の建物の表示)
所 在 名古屋市◯◯区◯丁目◯番地◯
建物の名称 ◯◯◯マンション
(敷地権の目的である土地の表示)
土 地 の 符 号 1
所在及び地番 名古屋市◯◯区◯丁目◯番
地 目 宅地
地 積 ◯◯◯.◯◯平方メートル
(専有部分の建物の表示)
家 屋 番 号 ◯丁目◯番◯の◯◯
建物の名称 ◯◯◯◯
種 類 居宅
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床 面 積 ◯階部分 ◯◯.◯◯平方メートル
(敷地権の表示)
土 地 の 符 号 1
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 ◯◯◯◯◯◯分の◯◯◯
(2)預貯金
◯◯◯銀行◯◯支店に預託等している預金等資産の全部
第2条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として次の者を指定する。
住 所 ◯◯市◯◯町◯番地◯
職 業 行政書士
氏 名 ◯◯◯◯
生年月日 昭和◯年◯月◯日
遺言執行者は、遺言者の有する株式、預貯金等の金融資産について名義変更、解約及び払戻し等をする権限、その他この遺言を執行するに必要な一切の権限を有する。
【付言事項】
私を産み、育ててくれた両親に感謝します。素晴らしい両親のおかげで、私は生涯の伴侶となる妻(夫)に出会い、幸せな人生を送ることができました。妻(夫)には、自宅不動産と預金のすべてを相続してもらうことにしました。私の死後も、住まいやお金の心配をせずに、安心して老後を過ごしてもらいたいからです。勝手なお願いではありますが、どうか両親には遺留分の請求はしないようお願いします。
愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯号
職業 会社役員
遺言者 ◯◯◯◯
昭和◯◯年◯◯月◯◯日生
上記は、印鑑証明書の提出により、人違いでないことを証明させた。
愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯◯号
会社員
証人 ◯◯◯◯
昭和◯◯年◯◯月◯◯日生
大阪府大阪市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯◯号
自営業
証人 ◯◯◯◯
昭和◯◯年◯◯月◯◯日生
以上のとおり、遺言者及び証人に読み聞かせたところ、各自この筆記の正確なことを承認し、署名押印する。
遺言者 ◯◯ ◯◯ 印
証人 ◯◯ ◯◯ 印
証人 ◯◯ ◯◯ 印
この証書は、令和◯年◯◯月◯◯日 本公証人役場において、民法第969条第1号ないし第4号所定の方式に従って作成し、同条第5号に基づき、本公証人次に署名押印する。
愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯◯号
愛知法務局所属
公証人 ◯◯ ◯◯ 印
<補足事項>
①兄弟姉妹には「遺留分)の請求権はありませんが、父母(第二順位の法定相続人)は「遺留分」の請求権があるため、「付言事項」で父母への感謝を伝え、理解を求める文言を添えておくことがお勧めです(もちろんこの記載があっても、この部分に法的な拘束力はありません)。
②不動産の個別具体的な記載をすることなく、「遺言者の有する全ての遺産」とまとめることも出来ますが、遺言者の重要かつ中心的な財産として特に明示しているケースです。遺言作成過程においては「登記事項証明書」を公証役場に提供するだけですので、細かい記載を遺言者が考える必要はありません。
1-2.配偶者と子一人に財産を分配し、配偶者に配偶者居住権を与える場合
配偶者と子どもが一人いる場合、法定相続では、配偶者と子どもそれぞれに1/2の相続が行われます。
この場合、相続内容や分配方法にもよりますが、配偶者は「住む家はもらったが生活費がない」という状況に陥る可能性があります。
配偶者に居住場所と現金の両方を遺したい場合は、以下のような公正証書遺言を遺しておくと安心です。
令和◯年第0000号
遺言公正証書
本職は、遺言者◯◯◯◯の嘱託により、証人◯◯◯◯、同◯◯◯◯の立会いの下に遺言者の口述を筆記してこの証書を作成する。
第1条 遺言者は、遺言者の所有する下記の建物(以下「本件建物」という。)の配偶者居住権を、妻(夫)◯◯(昭和◯◯年◯月◯日生)に遺贈する。
所 在 愛知県名古屋市◯◯区◯町◯丁目◯番地◯
家屋番号 ◯番◯
種 類 居宅
構 造 木造瓦葺2階建
床 面 積 1階 ◯◯.◯◯㎡
2階 ◯◯.◯◯㎡
第2条 遺言者は、本件建物の負担付所有権を、長男◯◯(昭和◯◯年◯月◯日生)に遺贈する。
第3条 遺言者は、遺言者の有する次の不動産を前記長男◯◯に相続させる。
所 在 愛知県名古屋市◯◯区◯町◯丁目
地 番 ◯番◯
地 目 宅地
地 積 ◯◯.◯◯㎡
第4条 遺言者は、遺言者の有する次の預貯金を、遺言者の妻(夫)◯◯(昭和◯◯年◯月◯日生)および長男(長女)◯◯(昭和◯◯年◯月◯日生)に、各2分の1の持分割合により相続させる。
(1) ◯◯銀行◯◯支店の預金全部
(2) ゆうちょ銀行の通常貯金(◯◯◯◯◯-◯◯◯◯◯◯◯◯)全部
第5条 前記長男(長女)◯◯は、本遺言により財産を取得する負担として、遺言者の葬儀、納骨等の費用、未払公租公課及び債務の一切を負担、承継しなければならない。
第6条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として次の者を指定する。
住 所 ◯◯市◯◯町◯番地◯
職 業 行政書士
氏 名 ◯◯◯◯
生年月日 昭和◯年◯月◯日
遺言執行者は、遺言者の有する株式、預貯金等の金融資産について名義変更、解約及び払戻し等をする権限、その他この遺言を執行するに必要な一切の権限を有する。
【付言事項】
これまで添い遂げてくれた◯◯が今後も安心して暮らせるよう、配偶者居住権を設定することにしました。これからもふたりでよく助け合い、元気に仲良く暮らしていくことを祈っています。
愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯号
職業 会社役員
遺言者 ◯◯◯◯
昭和◯◯年◯◯月◯◯日生
上記は、印鑑証明書の提出により、人違いでないことを証明させた。
愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯◯号
会社員
証人 ◯◯◯◯
昭和◯◯年◯◯月◯◯日生
大阪府大阪市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯◯号
自営業
証人 ◯◯◯◯
昭和◯◯年◯◯月◯◯日生
以上のとおり、遺言者及び証人に読み聞かせたところ、各自この筆記の正確なことを承認し、署名押印する。
遺言者 ◯◯ ◯◯ 印
証人 ◯◯ ◯◯ 印
証人 ◯◯ ◯◯ 印
この証書は、令和◯年◯◯月◯◯日 本公証人役場において、民法第969条第1号ないし第4号所定の方式に従って作成し、同条第5号に基づき、本公証人次に署名押印する。
愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯◯号
愛知法務局所属
公証人 ◯◯ ◯◯ 印
<補足事項>
①配偶者居住権の設定方法ですが、「相続させる」ではなく「遺贈する」という言葉を使用します。これは、もし配偶者が配偶者居住権の取得を希望せず、「拒否」したい場合において、「相続」と記載されていると「相続放棄」を選択しなくてはならなくなるからです。一方、「遺贈」という扱いにすれば、「遺贈の放棄」という形で法定相続人たる地位は残すことが出来ますし、かつその「期限」も3か月以内などに縛られないためです。このような文言についても、法律のプロである公証人の関与があるため、遺言書の文言の表現として助言を頂けることが期待できます(※どこまで相談に乗ってもらえるかは公証人の先生ごとにやや異なりますし、基本的には中立的な立場であり、遺言内容について深入りはされませんので、誤解が生じないようにご留意ください。)。
②「付言事項」は記載が無くても有効性に問題はありませんが、できるだけ記載することを推奨しています。
1-3.未婚で子どもがなく、飼育していたペットの飼育者(等の第三者)に財産を遺贈したい場合
配偶者や子どもがいない場合、法定相続では、父母(直系尊属)にすべての相続がされます。
父母や祖父母がすでに他界している場合は、兄弟姉妹に分配され、父母や祖父母、兄弟姉妹(※兄弟姉妹が死亡している場合、その子どもである甥姪も含む)もいない場合には、「相続人不存在」となり、遺産は国庫(財務省)に入ります(※もし内縁の配偶者などの「特別縁故者」がいれば、その「特別縁故者」に財産が帰属することもあります。また共有財産については、国庫へ行く前に、他の共有者に帰属することとなります)。
もしペットと一緒に暮らしていた場合において、そのペットより先に自分が死んでしまった後、ペットの世話をしてくれる人に遺産を渡したい場合は、以下のような公正証書遺言を遺しておくと安心です。なお、日本の法律上、ペット自体は権利の主体になれないため、ペット自体に遺贈は出来ません。
令和◯年第0000号
遺言公正証書
本職は、遺言者◯◯◯◯の嘱託により、証人◯◯◯◯、同◯◯◯◯の立会いの下に遺言者の口述を筆記してこの証書を作成する。
第1条 遺言者は、遺言者の有する預貯金その他一切の財産を◯◯◯◯(昭和◯◯年◯月◯日生・住所愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯号)に遺贈する。
第2条 第1条記載の◯◯◯◯は、遺贈を受ける負担として遺言者が飼育してきた愛猫●●を引き取って、大事に飼育するものとする。また、愛猫の死後は、手厚く埋葬し供養すること。
第3条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、第1条に記載する包括受遺者である◯◯◯◯(昭和◯◯年◯月◯日生・住所愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯号)を指定する。
遺言執行者は、遺言者の有する株式、預貯金等の金融資産について名義変更、解約及び払戻し等をする権限、その他この遺言を執行するに必要な一切の権限を有する。
【付言事項】
私が入院してからずっと愛猫●●の世話をしてくれた◯◯さんに、感謝を込めて財産を贈ります。愛猫●●が私の元に再び来る日まで、どうか●●のお世話を引き続きお願いします。もしどうしても、●●の世話が困難になった場合は、●●●●に相談してもらいたいです。よろしくお願いいたします。
愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯号
職業 会社役員
遺言者 ◯◯◯◯
昭和◯◯年◯◯月◯◯日生
上記は、印鑑証明書の提出により、人違いでないことを証明させた。
愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯◯号
会社員
証人 ◯◯◯◯
昭和◯◯年◯◯月◯◯日生
大阪府大阪市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯◯号
自営業
証人 ◯◯◯◯
昭和◯◯年◯◯月◯◯日生
以上のとおり、遺言者及び証人に読み聞かせたところ、各自この筆記の正確なことを承認し、署名押印する。
遺言者 ◯◯ ◯◯ 印
証人 ◯◯ ◯◯ 印
証人 ◯◯ ◯◯ 印
この証書は、令和◯年◯◯月◯◯日 本公証人役場において、民法第969条第1号ないし第4号所定の方式に従って作成し、同条第5号に基づき、本公証人次に署名押印する。
愛知県名古屋市◯◯区◯◯町◯丁目◯◯番◯◯号
愛知法務局所属
公証人 ◯◯ ◯◯ 印
<補足事項>
①このようにペットの世話等を「負担」にして財産を帰属させることを「負担付遺贈」と言います。もっとも、受遺者には「放棄する」という選択もあるため、ちゃんと面倒を見てくれるかどうかについては、事前に良く話し合うことが必要です。世話を押し付けるような形になるのは、あまりよろしくありません。
1-4.実際にプロが作成した公正証書遺言の見本を公開
実際にプロ(筆者)が作成した公正証書遺言をご紹介します(個人情報の観点から一部を秘匿しています)。
いかがでしょうか?
遺言者が実行したい相続がきちんと実行できるように、死亡した順番が変わってしまうことを想定するなどで、事細かく記載されていることが分かります。
また遺言者の想いが伝わるように、遺言者自身の言葉で事業に対する想いや家族に対する想いが綴られていることも、実際に作成した公正証書遺言にはしっかりと記載されています。
作成当時は30歳だったので、これから子どもが増えるかもしれないことなども想定しました。
記事を読んでいただいているあなたは、こちらの公正証書遺言の見本を見て、かなりイメージが湧いたのではないでしょうか。
法人経営をしていること以外、特に複雑かつ特殊なケースではございませんが、公正証書遺言の一例として、参考になれば幸いです。
次章に1章で紹介した見本から、作成時に押さえていただきたい公正証書遺言の構成とそのポイントとについて解説していきます。
2.【見本から読み解く】公正証書遺言の構成とポイント
公正証書遺言は、主に以下のような内容で構成されています。
・遺言者の口述に基づいた、公証人による作成であること
・贈る相手ごとに条項を分けて財産を分配する
・遺言者の住所と氏名
・証人の住所と氏名
・遺言者と証人の署名押印
・作成者の住所と署名押印
上から順に、内容について詳しく見ていきましょう。
2-1.遺言者の口述に基づいた、公証人による作成であること
公正証書遺言の冒頭は、この証書の作成者が、遺言者の嘱託を受けて証書を作成していることの宣言から始まります。この部分は「決まり文句」となっています。「証人」については、利害関係のない第三者を2名選ぶ必要があります。
2-2.贈る相手ごとに条項を分けて財産を分配する
一般的な記載方法として、財産を贈る「相手方ごと」に、条項を分けて内容を記していきます。同じ条項で、複数の当事者が登場しても無効ではありませんが、受け取り側の視点からみて、わかりやすい方がよいでしょう。
また、公正証書遺言の作成時点と効力発揮時点(=遺言者が死亡した時点)では、財産の構成やその金額の多寡が増減することが当然に生じるため、ひとつの財産を分割する場合、金額ではなく割合で示すことが一般的です。
2-3.遺言者の住所・氏名
遺言書の後半部分で、遺言者を特定させるために、遺言者自身のの個人情報(住所・氏名・職業・生年月日)を記載します。
また、提出した印鑑証明書により、本人確認がされたことを示しています。
2-4.証人の住所・氏名
証人2名の個人情報を記載します。
証人は以下のいずれかの方法で立てます。
①遺言者本人が証人になってくれる人を探して依頼する
②公証人役場で証人を準備してもらい依頼する(※但し、公証役場によっては出来ない場合があります)
③行政書士や弁護士などの専門家に依頼する
なお、以下の方は証人になることができないため、証人を依頼する際に注意してください。
【注意】証人になることができない人 |
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・未成年者 ・推定相続人 ・遺贈を受ける者(=推定相続人の資格のない人で遺産を譲り受ける人) ・「推定相続人」および「遺贈を受ける者」の、配偶者および直系血族等 |
2-5.遺言者と証人の署名押印
遺言者と証人2名、それぞれの自筆での署名と押印により、内容の正確さを証明します。
2-6.作成者の住所と署名押印
公正証書遺言の最後は、作成者の情報と署名押印で結びます。
これにより、この証書が所以ある第三者の手によって公正・中立に作成されたものであることを示します。
3.必要に応じて記載するもの
2.【見本から読み解く】公正証書遺言の構成とポイントでお伝えした内容のほか、必要に応じて以下の内容を記載します。これらは任意的な記載事項であり、必ずしも記載が必要というわけではございません。
・祭祀主宰者の指定
・遺言執行者の指定
・付言事項
それぞれどのようなことを記載するものか、詳しく見ていきましょう。
3-1.祭祀主宰者の指定
遺言者や先祖代々の位牌やお仏壇、墓石といった祭祀(さいし)にかかる財産は、相続の手続きの中では相続財産と区別されて扱われます。
祭祀財産は、指定された祭祀主宰者が受け継ぐことになります。
祭祀主宰者は、祭祀財産を管理して法要を行ったり、お墓を管理したりする役割を担うことになります。
具体的には、以下のような文言になります。
第◯条 遺言者は、祭祀の主宰者として前記◯◯◯◯を指定する。
第◯条 前記◯◯◯◯は、遺言者の葬儀、納骨等の費用の一切を負担、承継しなければならない。
なお、葬儀そのものの内容をどうするかについての指定については、公正証書遺言で記しても法的な拘束力はありません。
特別にこだわりがあったり、すでに葬儀の内容も葬儀社と取り決めていたりする方は、公正証書遺言とは別に、事前に遺族に知らせておきましょう。
3-2.遺言執行者の指定
遺言執行者は、遺言書の内容に従って、遺言者の意思を実現する役目を担います。
遺言執行者を決めておくことで、死後の相続手続きをスムーズに進めることができます。
第3条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として次の者を指定する。
住 所 ◯◯市◯◯町◯番地◯
職 業 行政書士
氏 名 ◯◯◯◯
生年月日 昭和◯年◯月◯日
遺言執行者は、遺言者の有する株式、預貯金等の金融資産について名義変更、解約及び払戻し等をする権限、その他この遺言を執行するに必要な一切の権限を有する。
遺言執行者は、おおよそ以下のことを行います。
・遺言執行となる対象財産の確認と整理(財産目録の作成及び交付)
・法定相続人や遺贈を受ける相手への連絡
・財産の引き渡しにかかる事務手続き
複雑な相続内容ではなかったとしても、遺言を執行するためには、それなりの時間と手間を要します。必要な書類を申請・記入し、所定の窓口に提出するだけでも、一般的な遺族では、日常の動線と異なり、精神的にも時間的にも少なくない負担となるでしょう。
また、遺贈の中には専門知識が必要になってくるものもあるため、行政書士を始めとした法律の専門家に依頼することで、早く・失敗なく手続きを済ませることができます。
なお、遺言執行者の指定と併せて、その「報酬」についても事前に定めておくと、相続人と執行者での報酬を巡るトラブル防止になるため、できるだけ報酬についても規定することを推奨しています。
3-3.付言事項
付言事項とは、公正証書遺言で法的効力を与えることを直接の目的としない、任意的な記載事項のことを指します。
付言事項は自由に文章を作成できるため、遺言者の想いを伝えることができます。
家族やお世話になった人に対しての感謝の気持ちを伝えたり、相続や遺贈の理由を述べたりすることができるため、取り分が少なくなる相続人の心象を良くし、相続トラブルを未然に防ぐ効果が期待できます(もちろん法的な効力がないため、その効果には限界があります)。
自由に文章を添えることはできますが、公正証書遺言の本文においては法定遺言事項がメインになるものなので、付言事項はできるだけ簡潔にまとめることが望ましいです。
4.公正証書遺言書と自筆証書遺言書の内容の違い
公正証書遺言と自筆証書遺言では、内容にどのような違いがあるのか、詳しく見てみましょう。
まずは、自筆証書遺言の書き方の注意点をお伝えします。
次に、公正証書遺言との違いを、比較して見てみましょう。
単純に署名押印の多さ(遺言者の他に、証人2名+公証人1名が存在するため)から見ても、公正証書遺言が、改ざんや偽造の可能性が低いことがお分かりになるでしょう。
自筆証書遺言はお金もかからずにいつでも思い立った時に書くことができるのが魅力ですが、法定相続人への遺留分への配慮不足や記載漏れ財産、保管リスクの高さといった心配が付きまといます。
自筆証書遺言を遺したいと思う場合は、できるだけ専門家に相談のうえ、内容に不備がないかを確認しながら進めていくことをお勧めします。
なお、以下のものは特に記載漏れが多く、もし記載が漏れてしまうと遺産分割協議が起こりやすい財産なので、抜け漏れがないか注意して遺言書の作成にあたってください。
記載漏れを防ぐためには、「その他すべての財産」などのように包括的な記載も検討するようにしましょう。
【記載漏れの多い相続財産】
・書画骨董など美術品
・価値のある家庭用財産・自宅家屋内に存する動産
・タンス貯金(・手持ち現金)
・各種未収金(未受領配当金など)
・単元未満株式・非上場株式
・借金(金銭債務)
・固定資産税を支払っていない評価の低い山林や私道などの不動産(共有持分) 等
5.公正証書遺言の作成依頼をする前にやっておくといいこと
公正証書遺言の作成にあたり、公証役場へ行く前にやっておくべきこと、やっておいた方がいいことをお伝えします。
公証役場の混雑状況にもよりますが、公正証書遺言の作成には早くても1週間、長いと3週間~1か月半ほどの時間がかかることがあるため、できるだけ時間的な余裕を持って準備することをお勧めします。
場合によっては、公正証書遺言の作成準備中に亡くなってしまうこともあり得るため、長期化が予想された段階で、自筆証書の形式で遺言作成をすることも実務ではあります。
5-1.相続財産の洗い出し
相続対象となる財産の種類とその額をすべて洗い出します。
あなた自身が生涯をかけて築きあげ、守ってきた財産です。重複や漏れがないよう、ひとつひとつ紙に書き出していきます。また、不動産であれば登記事項証明書を取得し、預貯金であれば残高証明書を取得するのもお勧めです。
パソコンが使える人は、「Excel」などの表計算ソフトを活用しても良いでしょう。
遺言書を書く目的のひとつとして、「大切な人を相続争いに巻き込ませない」というものがありますが、もしも遺言書に記載のない財産が出てきてしまうと、その分をどのように相続するかについて、法定相続人の間で遺産分割協議を行う必要が出てきます。
そうした事態を避けるためにも、保有している財産はたとえ少額と思ったものでも、思い出せる限り書き出してください(又は遺言書内に包括的な文言を入れるようにして下さい)。
5-2.だれに何をどれくらい遺すのかを決める
保有している財産の種類と額がわかったら、それぞれの帰属先と数量(割合・金額)を決めます。
だれに:どの相続人または第三者たる団体等に
何を:どの種類の、どの財産を
どのくらい:どれくらいの割合や相当額で
あまり複雑でない相続の場合には、この3点をしっかり整理しておけば、公証人に遺言書の作成をしてもらうことができます。
財産は、遺言が執行されるまでに増減するものですが、あくまでも公正証書遺言の作成時点の財産をまとめます。将来発生が見込まれる予定資産などは記載しないようにしましょう。
5-3.専門家による相続内容についての相談
特に以下のようなケースでは、公証人に遺言書の作成を依頼する前に、行政書士や税理士、司法書士、弁護士などの専門家に相談をして、分割方法の検討や家庭裁判所などでの事前手続きを踏まえる必要があります。
公正証書遺言書の作成にあたり、専門家に内容の相談をした方がいい人 |
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・相続するものが多い(※特に、相続税の発生が見込まれる場合) ・相続する相手方が多い ・不動産以外に相続する金融資産が少なく、遺産のほとんどが不動産になっている ・どうしても相続させたくない法定相続人がいる ・子どもがいなくて、自分の兄弟姉妹とは疎遠である ・いわゆる身寄りがなく、「おひとりさま」である |
公証人は「遺言者が決めたことを法律的な効力のある文書にする」のが仕事であり、「遺言内容」についての細かい相談や手続きの依頼などはできません。
なぜなら、公証人制度には「高い中立性」が求められ、公証人が遺言者の意思決定に影響をおよぼす助言などは、一切してはならないこととされているからです。
上記の例は、家庭裁判所に遺産分割調停事件として持ち込まれることの多いケースでもあります。
こうした資産の分割方法や必要な事前手続き、相続争いの回避方法については、遺言書の作成実績のある専門家の意見を仰ぐのが得策です。
まとめ
今回は、公正証書遺言の見本をご紹介しました。
公正証書遺言は、法的効力が及ぶよう、以下のような内容と順番で構成されています。
公正証書遺言の構成 |
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・遺言者の口述に基づいた、公証人による作成であること ・贈る相手ごとに条項を分けて財産を分配する ・遺言者の住所・氏名・職業・生年月日 ・証人の住所・氏名・職業・生年月日・遺言者と証人の署名押印 |
また必要に応じて記載する任意的記載事項は、以下の通りです。任意なので記載がなくても無効にはなりませんが、できる限り記載するようにしましょう。
公正証書遺言に付け加えられる内容 |
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・祭祀主宰者の指定 ・遺言執行者の指定 ・付言事項 |
公正証書遺言の作成に当たって、事前に済ませておくべきことは以下の通りです。
公正証書遺言の作成前にやっておくべきこと |
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1.相続財産の洗い出し(財産調査/棚卸し) 2.だれに、何を、どれくらい遺すのかを決める 3.専門家への相続内容についての相談 |
この記事が、公正証書遺言の作成を考えるあなたにとって、役立つものになれば幸いです。