【はじめてでも安心】公正証書遺言の作成手順|基礎知識を網羅解説
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「公正証書遺言の作成って、どんなことが必要になってくるのだろう」
「公正証書遺言を作成したいが、遺言作成完了後に財産に増減があったらどうなるのか」
公正証書遺言の作成は、遺言者の死後の相続トラブルを防いだり、遺産承継手続きを円滑にするのにもっとも有効な方法です。
公正証書遺言の作成に当たっては、おおよそ以下の手順で行います。
この記事では、このような作成の流れを踏まえながら、公正証書遺言の作成に必要な書類から作成に係る費用など、わかりやすく解説します。
また、公正証書遺言の作成後の注意点なども合わせてお伝えしていきます。
本記事のポイント |
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□ 公正証書遺言の作成方法を知ることができる □ 公正証書遺言の作成手順を知ることができる □ 公正証書遺言の作成にかかる費用や手数料を知ることができる □ 公正証書遺言の作成に必要な書類を知ることができる □ 公正証書遺言の作成をした方がいい理由を知ることができる □ 公正証書遺言の作成後の注意点を知ることができる |
この記事を読むことで、公正証書遺言の作成の流れから費用・手数料の目安などを理解し、公正証書遺言を作成するべきかどうかの判断ができるようになります。
1.公正証書遺言の作成方法
公正証書遺言は、全国にある公証役場のひとつを訪れ、そこにいる公証人に遺言の内容を伝え、法的な効力のある文書を作成してもらうことで作ることができます。
公証役場の管轄は住所地に限定しておりませんので、自宅から最寄りの公証役場ではなくても、職場の近くの公証役場や、自宅からアクセスしやすい公証役場など、自由に選ぶことが出来ます。
しかし特段の事情がない限りは、住所地から一番近い公証役場に相談すると良いでしょう。
自分で全文を自署するなどして作成するのではなく、「公証人」という公正・中立な立場の法律の専門家に作成を嘱託することが、大きな特徴です。
公正証書遺言の作成方法は、大きく分けて以下のふたつの選択肢に分けられます。
(1)自分で直接公証役場に行き、決定した遺言内容を公証人に伝える(専門家を関与させない)
(2)行政書士などの専門家に、公証人とのやり取りを代行してもらう(専門家に関与してもらう)
公証人とは、裁判官や検察官あるいは弁護士として法律実務に携わった者で、公募に応じたものの中から法務大臣が任命したものです。
法律についての専門的な知識を携えていますが、公正・中立な立場で公正証書を作成するため、以下のような遺言の内容に関わる相談については、一切応じることができません。
・どの財産をどのように分ければ良いか
・相続税を抑える方法はあるか
・相続放棄させたい法定相続人がいるがどうしたらいいか
・相続登記を済ませていない自分の親の土地を相続したい
・どの慈善団体に寄付をしたらいいか
公証人は、法的に間違いや誤解の生じることのない正しい文書を作成する人です。「役所」のようなところであり、民間のサービス事業者ではないためです。
このことを踏まえた上で、自分一人で決定した遺言を直接公証人に伝えて作成を進める方法と、行政書士などの専門家を通して、公正証書遺言の作成を手伝ってもらう方法のふたつについて、それぞれ詳しくお伝えしましょう。
なお、信託銀行が提供する「遺言信託」というサービスを利用することもできますが、これも「専門家に関与してもらう」場合と言えます。
1-1.自分で直接公証役場に持ち込む(専門家を関与させない)
遺言の内容が簡易的かつ明確であり、遺言者自身が相続に関する知識もある程度有しており、専門家を関与させなくても特に不安が生じない場合は、遺言内容が決定でき次第、必要書類の提出と共に決定した内容をそのまま公証役場(公証人)に伝えて、公正証書遺言の作成を進めてもらうことができます。
なお、証人2名については、必ず必要となりますので、知人や友人にお願いする必要があります(公証役場によっては、弁護士等を紹介してくれることもあるようですが、自分で探すのが原則です)。
公式のデータ等はございませんが、筆者(行政書士法人エベレスト代表社員野村篤司)が実務上、公証役場に良く出入りをしていますと、専門家の関与のない公正証書遺言の作成事例は、2割前後に過ぎないのではないかと存じます。
理由は様々だと思いますが、おそらく「専門家の関与を欲しない人は、そもそも自筆証書遺言の形式を選択しているのではないか」と推測しています。
そのため、次に説明する専門家に関与して作成する方法が大半なのではないかと存じます。
1-2.行政書士などの専門家に依頼する(専門家に関与してもらう)
公正証書遺言の記載内容そのものについて、遺言者の亡き後、遺言記載内容の実現が本当にされるかどうかの関心が高いはずです。
正しく、速やかに、残されたご家族の負担が少なく執行可能な内容にするにはどうしたらいいか不安がある場合には、行政書士などの専門家に相談をして具体的な遺言書の記載方法を確定した上で、公証人とのやり取りについても代行を依頼するのが安心です。
公正証書遺言の作成過程を、行政書士などの専門家に依頼することは、以下のようなメリットがあります。
公正証書遺言の作成を専門家に依頼するメリット |
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・相続財産の調査方法を熟知しているため、財産の抜けや漏れを防ぐことができる ・税理士を関与させることで、相続税対策の適切なアドバイスを受けられる ・遺言者本人の希望や事情を汲み取った「付言」の例文を起案してもらえる ・「遺言執行者」として指定し、万が一の際には、速やかに手続きをしてもらえる ・遺言書の作成後も、継続して相談ができるため安心できる |
繰り返しになりますが、公証人は「公正・中立な立場で法的に間違いや誤解の生じることのない正しい文書を作成する人」なので、遺言の内容そのものに関係する質問や相談には一切答えられません。
遺言書は、「遺言者の真意」に基づいて作成しなければならず、遺言の内容自体に意見したりすることはできないのです。
自分一人の判断で公正証書遺言を作成するのに不安がある場合には、行政書士などの専門家に質問や相談をしながら遺言案を固めていくのが良いでしょう(もちろん遺言書の内容自体に意見したりすることが出来ない点は専門家も同じですが、「役所の1つである「公証役場」よりは、具体的な相談対応が期待できるのです)。
2.公正証書遺言の作成手順
冒頭でもお伝えしましたが、公正証書遺言に作成手順は、おおよそ以下のようになっています。
公正証書遺言の作成の流れ | ||
---|---|---|
やること | 専門家への
委任 |
|
STEP1 | 相続財産を洗い出す(財産の調査・棚卸し) | 代行可能 |
STEP2 | 「だれに・何を・どのくらい」を決める | 代行不可
(決めるのは遺言者) |
STEP3 | 証人としての立ち合いを2人依頼する | 就任可能 |
STEP4 | 戸籍謄本等の必要書類を集める | 代行可能
(※印鑑証明書以外) |
STEP5 | 公証役場の公証人に、確定した遺言内容を伝える | 伝達の代行は可能
(決めるのは遺言者) |
STEP6 | 公証人が作成した遺言書案の確認・修正をする | 確認は代行不可
(修正依頼のみ可能) |
STEP7 | 公証人の面前で、公正証書遺言の原本に署名捺印する | 代行不可
(※証人として署名捺印するのみ) |
自分一人で案を作成する場合の注意点や、行政書士などの専門家に委任できる内容についてなど、それぞれのステップごとに詳しく見ていきましょう。
STEP1.相続財産を洗い出す(財産の調査・棚卸し)
遺言者が所有する財産財産の種類と数量、その評価額をすべて洗い出します。この棚卸し作業をせずに、遺言書作成を進めてしまうと、遺言者が望む結果とは異なる結果が生じる場合があり、場合によっては、遺言書を残したのに、別途共同相続人間で遺産分割協議が必要になってしまう事態が生じます。
そうした予想外の事態を避けるためにも、遺言者が保有している財産はたとえ少額と思ったものでも、思い出せる限り洗い出し、残高証明書を取得するなどで明らかにしていってください。
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も相続では影響するため、以下を参考に抜け漏れのないように注意してください。
保有している財産の例 | |
プラスの財産 | 土地・建物などの不動産(特に評価額の低い農地や山林、わずかな土地や未登記家屋などが漏れやすいです)、自動車、預け入れしている敷金や保証金、積み立てタイプの損害保険、手持ち現金、預貯金や出資金、有価証券(特に端数株式や未受領配当金は漏れやすいです)、美術骨董品、家庭用財産やゴルフ会員権、会社経営者の場合の会社に対する貸付金など |
マイナスの財産 | 借金(負債)、会社経営者の場合の会社からの借入金、住宅ローンやマイカーローン、住民税や固定資産税等の未払金など |
STEP2.「だれに・何を・どのくらい」を決める
財産の調査・棚卸しを行い、遺言者が保有している財産の種類や評価額が明確になったら、個々の財産につき、相続させたい先(相手方)と、その数量や金額を決めます。
だれに:どの親族または団体等に
何を:どの種類の、どの財産を
どのくらい:数量、割合、金額等
1-1.自分で直接公証役場に持ち込む(専門家を関与させない)でお伝えしたような場合には、基本的にこの3点をしっかり整理しておけば、公証人に公正証書遺言の作成をしてもらうことができます。
しかし、所有している金融資産と不動産とのバランスが悪い場合(分配しづらい場合)や、法定相続人の人数が多い場合、配偶者居住権の設定などやや専門的な事項がある場合は、早い段階から、公正証書遺言について行政書士などの専門家に相談することで、スムーズな解決策を提示してもらうことが期待できます。
STEP3.証人としての立ち合いを2人依頼する
公正証書遺言の作成には、証人を2名立てる必要があります。
この証人2名には、遺言者の意思を確認し、手続が公的な様式に則って行われたことを保証するという重要な役割があります。遺言者の伝えた内容がきちんと公正証書遺言になっているかを確認するために、遺言者の両隣に1名ずつが座ります。
依頼する証人2名は、以下のいずれかの方法で立てます。
①遺言者本人が証人になってくれる人を探して依頼する
②行政書士などの専門家に依頼する
③公証人役場で証人を準備してもらい依頼する(※公証役場によっては断られる場合もあります)
いずれの方法で立てた証人でも、証人としての効果は変わりませんが、証人になることができない人もいるので、注意してください。
【注意】証人になることができない人(民法第974条) |
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一 未成年者 二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族 三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人 |
STEP4.戸籍謄本等の必要書類を集める
公正証書遺言の作成には、以下の書類が必要になります。
公正証書遺言書の作成に必要な書類 | ||
---|---|---|
身分や関係の確認ができるもの | 遺言者本人のもの | 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの) |
戸籍謄本(発行から3ヶ月以内のもの) | ||
相続を受ける人のもの | □ 本人と相続人との関係がわかる戸籍謄本(発行から3ヶ月以内のもの) | |
遺贈を受ける人のもの | □ 遺贈を受ける個人の住民票(発行から3ヶ月以内のもの)、手紙、ハガキその他住所の記載のあるもの □ 遺贈を受ける法人の登記事項証明書または代表者事項証明書 |
|
財産の特定ができるもの | 不動産を相続する場合 | □ 登記事項証明書 □ 固定資産税評価証明書(または納税通知書中の課税明細書) |
預貯金や有価証券を相続する場合 | □ 銀行名や証券会社の口座番号がわかるもの |
遺言者との関係性によって、また所有財産の種類によって集める書類の数や手間が異なります。
できるだけ余裕を持って準備するようにしてください。
証人を自分で探して依頼した場合は、証人となる人の住所・氏名・職業なども伝えます。
なお、委任状を書くことで、印鑑証明書以外の必要書類については、収集を行政書士などの専門家に任せることもできます。書類収集が不安な場合は、依頼を検討すると良いでしょう。
公正証書遺言の必要書類についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください
STEP5.公証役場の公証人に、確定した遺言内容を伝える
財産の棚卸し、遺言内容の決定、証人2名の確保が出来たら、作成をしたい公証役場に電話またはメールで連絡をし、公正証書遺言書の作成をしたい旨を伝えます。
公証役場は公証人が執行する事務所のことで、全国に300ほどあります。以下の日本公証人連合会のページから自分の行きやすい場所を選んで、直接申し込みをしてください。管轄はありませんが、住所地の最寄りの公証役場を選ぶ方が多いです。
公証役場にもよりますが、公正証書遺言の作成当日まで、一度も足を運ばず、メールだけでやり取りすることもできるようになっています。
この申し込みから作成当日までのやり取り(事務手続き)について、行政書士など専門家に任せることも可能です。行政書士は官公署(公証役場含む)に対して提出する書類の作成や権利義務に関する書類(公正証書遺言)の作成に関する国家資格者です。
STEP6.公証人が作成した遺言書案の確認・修正をする
公正証書遺言の「案」ができあがると、遺言者本人(※専門家が関与している場合は、やり取りを代行している専門家)宛てに、メールや郵送、FAXなどで送られてきます。
内容を1字1区しっかりと確認して、記載間違いや、間違ってはいないけど気持ちが変わるなどして訂正したい箇所があれば、公証役場へ修正を依頼します。
公証人(又は事務員)が修正依頼内容を反映させ、再度遺言者本人によって遺言案が確認されたところで、公正証書遺言の作成日時を取り決めます。証人2名との都合も忘れずに調整しましょう。
なお、この遺言書案の確定と相手方ごとに計算される財産評価額によって、公証人に支払う公正証書遺言の作成手数料(公証人手数料)が決まります。
ちなみに、作成した遺言書原本は公証役場に保管されますが、「保管は無料」で行われます。信託銀行等の「遺言信託」では、公正証書遺言であっても、正本や謄本の保管が有料とされている場合があるので、そういったサービスを利用する際にはご注意ください。
STEP7. 公証人の面前で、公正証書遺言の原本に署名捺印する
公正証書遺言の作成当日は、遺言者本人による署名押印のため、必ず遺言者本人と証人2名が直接公証役場に足を運ぶ必要があります。
ただし、遺言者本人に健康上の事由がある場合は、病院や施設、自宅などに公証人に来てもらうこともできるため、直接公証役場へご相談ください。この時は、「公証人手数料」が高くなりますので、その点も留意下さい。
なお、公正証書遺言の作成当日の流れは、以下の通りです。
①現地に到着し、受付を行う(この際に、実印等の持ち物を確認されます)
▼
②2名の証人を両隣にして公証人の面前に座り、遺言者本人が、氏名や生年月日を伝えると共に、遺言内容の趣旨を改めて口頭で伝える(※この際、1字1句まで伝えるわけではありません)
▼
③遺言者の判断能力や遺言内容の趣旨に問題がないことを確認し、公証人が作成した「公正証書遺言」を、公証人が1字1句読み上げる(この時、遺言者と証人2名は、1字1区目で追っていきます)
▼
④記載された公正証書遺言の内容に相違がないか、遺言者本人(および証人2名が)確認する
問題がなければ、遺言書本人、次に証人2名、最後に担当した公証人の計4名が署名捺印することによって、晴れて「公正証書遺言書」が完成します。
作成した遺言書の「原本」は公証役場でデータ化されたうえで原本自体も保管され、遺言者本人には「正本」と「謄本」が各1部ずつ渡されます。
!!!注意!!!
作成当日は、証人も含め全員が「身分証明書類(遺言者は原則として印鑑証明書)」と「ご実印(証人は認印も可)」「公証人手数料」を忘れずに持参すること!
公正証書遺言の正本についてもっと知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
公正証書遺言の見本を確認したい方は、以下の記事もご覧ください。
3.公正証書遺言の作成にかかる主な費用
公正証書遺言の作成には、自分で作成する自筆証書遺言とは異なり、公証人手数料等の費用がかかります。
1.公正証書遺言の作成方法でお伝えしたように、自分で公証人とやり取りする方法(専門家を関与させない方法)と、行政書士などの専門家に相談・依頼して手伝ってもらう方法とで、それぞれかかる費用の合計額が異なってきます。
交付手数料などの細かい費用も発生しますが、ここでは主な費用についてご紹介します。
3-1.公証人への手数料(公証人手数料)
公証人が公正証書遺言の作成をするのにかかる手数料は、「財産の相続又は遺贈を受ける人ごとに」、以下の表に当てはめた金額が発生します。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,00万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
注意したいのは、上記の公証人手数料は「遺産の総額」に対してではなく、「「財産の相続又は遺贈を受ける人ごとの評価額」で計算して発生するということです。
そのため相続する資産の総額が同じでも、分割して受け取る相手ごとに手数料が発生するため、相続させたい当事者が多いと、その分手数料も多くかかる仕組みとなります。
また、全体の財産が1億円以下のときは、ここに「遺言加算」という名目の手数料1万1,000円が加算されるため、一通の公正証書遺言を作成するのに「最低でも1万6,000円」がかかることになります(その他、正本及び謄本の交付については1枚につき250円の手数料が発生したり、公証人が出張して、遺言者の病床等で執務を行う場合は、公証人手数料が1.5倍に加算されることがあります)。
3-2.行政書などの専門家(国家資格者)への報酬
公正証書遺言の作成にあたり、行政書士や弁護士など、「専門家(国家資格者)」に遺言内容についての相談・支援の依頼をする場合は、おおよそ以下の費用が発生します。
遺言作成の相談や支援の依頼ができる専門家の報酬(費用)相場 | ||
---|---|---|
専門家 | 作成支援費用(実費・税別) | 向いている遺言内容 |
行政書士
(行政書士法人) |
8~20万円 | 金融資産が多く遺言執行時の事務手続きが大変そう、係争性はないので弁護士の関与は避けたい等 |
弁護士
(弁護士法人) |
15~30万円 | 相続争いが起こりそう、法的論点がある、無効リスクが高い等 |
遺言制度や相続手続き(遺産整理業務)に詳しい行政書士や弁護士であれば、公正証書遺言書の作成支援から証人(2名)の立ち合いのほか、遺言者が死亡した後のことを考えて、「遺言執行者」として指名することもできます。
特に行政書士は、さまざまな書類作成のプロであり、中でも公正証書遺言の作成や相談業務は、行政書士の代表的な業務のひとつです(参考:日本行政書士会連合会/https://www.gyosei.or.jp/information/service/case-testament.html)。
「弁護士」の方が「行政書士」よりも作成支援時の専門家報酬が高くなっているのは、万が一遺言書の有効性について裁判などに争いになった時に、自らが代理人として法廷に立つことをも考慮している場合がある点や、そもそも資格取得の難易度やコストが異なるため、「人件費の差」がある点が考えられます。
なお、上記以外に、「信託銀行」が提供する「遺言信託」を利用する手もありますが、遺言作成時も、遺言執行時も、遺言書の保管期間中も、すべてにおいて報酬が高いので、あまりお勧めしません。
「富裕層向けの資産管理サービスの1つ」という位置づけであることが推測できるため、かなり敷居が高いと言えるでしょう。
公正証書遺言の費用についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
4.公正証書遺言の作成完了までにかかる日数
公正証書遺言を作成するには、準備期間を含めておおよそ3週間〜1ヶ月ほどを見て、余裕を持って作成してください。
どのような内容にどれくらいの日数がかかるのか、わかりやすく見ていきましょう。
4-1.財産の洗い出しをする日数(財産の調査・棚卸し)
遺言者によって、もっとも差が出てくるのが、「財産の洗い出し」にかかる日数です。
所有財産の数だけでなく、日頃どこでどのように管理しているかによって、すべての財産を洗い出す手間と時間が変わってきます。
通常は2~3日あれば、おおよそすべての財産を洗い出すことはできますが、美術骨董などを所有している場合、「鑑定人」などに時価相場を調べてもらうだけでも相当な時間がかかります。
不動産が多い場合は、それぞれの路線価の計算をするだけでも結構な時間がかかります。広大地や収益ビルなどの高額な不動産について「不動産鑑定士」へ評価を依頼した場合は、少なくとも2~3週間はかかります。
どこまでの評価や調査をするかにもよりますが、専門家に見てもらうのがもっとも安心です。
4-2.戸籍謄本等の必要書類を集める日数
戸籍謄本の原本や印鑑証明書の原本などは「市区役所や町役場の窓口」で取得することができるため、遺言者の住所地=本籍地であれば、取得にそれほど日数はかかりません。
しかし、本籍地が住所地から離れている場合など、戸籍謄本を郵送で取寄せる必要がある場合は、郵便の日数だけでも往復4日程度見ておく必要があります。
また、不動産がある場合は、登記事項証明書の取得のために、原則として「法務局」の窓口にも出向く必要があります。
こちらも、窓口ではなく、郵送請求を選択した場合は、やはり郵便日数がかかってしまいます。なお、インターネットが使える環境にある方であれば、いわゆる「ネット謄本」というものを取得すればすぐに取得が可能です。
また、不動産はなくとも、遺言者の保有する資産を、例えば「慈善団体」などに寄付をする場合は、事前にその団体に遺贈を受けてくれるか確認をとったうえで、「法人登記事項証明書または代表者事項証明書」を法務局で取り寄せる必要があります。
その場合は数日〜1週間程度はやはり時間がかかるでしょう。
4-3.公証人による遺言書の「起案」にかかる日数
遺言内容を口頭やメールで伝えた日から、遺言書案の作成までは、混み具合にもよりますが、筆者の経験上は、1週間ほどかかります。優秀な事務の方がいれば、もっと早い場合もあります。
なお、遺言者の健康上の理由などで急ぎ作成したい場合は、公証役場に直接掛け合ってみると良いでしょう。
もっとも、実務においては、公正証書遺言の作成には時間を要することを前提としたうえで、急ぎの場合は、「ひとまず自筆証書遺言の形式で1つ遺言書を作成しておく」ことを行います。
これは、「公正証書遺言を作成している間に、亡くなってしまった」という事態が無いようにするためです。
もちろん、これは「自署が出来る」前提ですので、必ずしもできるリスク低減方法ではない点にもご留意ください。。
また、複数の公証役場に問い合わせ、早く作成できるところに申し込むこともできます。必ずしも自宅から最寄りの公証役場で作成しないといけないわけではないためです。
なお、起案を頂き、問題がなかったとしても、「公証人及び証人2名+遺言者自身」の合計4名のスケジュールをそろえなくてはなりません。
特に公証人の先生によっては、「週3出勤」という場合もあるので、早め早めに日程を確保しておきましょう。
ちなみに作成当日の所要時間は、専門家が関与していてスムーズな場合(早い場合)でおよそ30分ほど、長い場合でも1時間程度です。但し、公正証書遺言の作成と同時に「任意後見契約」を締結する場合などは、さらに30分~1時間程度の時間を要します。公証人の先生によっても、多少の差があります。
以上を総合しますと、「公正証書遺言を作成しよう!」と思い立ってから、実際に公正証書遺言が出来上がるまで、1~2か月程度見ておくと良いでしょう。
筆者(行政書士)は最短で、「相談から3日後に公正証書遺言を作成できた」ことがありますが、こういったスピードで行うには、公証人(公証役場)の協力は当然として、やはり必要書類をどれだけ早く集め、かつ遺言書案の起案の経験量だと存じます。
5.公正証書遺言を作成した方がいい理由
公正証書遺言を作成する人は、毎年10~11万人ほどいます。過去に作った公正証書遺言を見直して「変更」する方も含まれていらっしゃいますが、相当多くの方々が作成されている印象ではないでしょうか。
団塊の世代の方々が後期高齢者に突入する「2025年」から考えれば、まだまだしばらく右肩上がりに増えていくのではないかなと推測しています。
参考:日本公証人連合会 令和3年の遺言公正証書の作成件数について
ちなみに、令和2年に法務局(遺言書保管所)による「自筆証書遺言の保管制度」が始まったことから、令和2年には一時的に10万人を切りましたが、自筆証書遺言では書き方によって遺言書の効力が発動しない(無効になりやすい)こともあり、依然として「公正証書遺言」の作成をする人が増えています。
自筆証書遺言(※遺言保管制度を利用しない場合)と比べて、「公正証書遺言」を作成した方が良いと考える理由は、主に次の3点です。
①作成段階で、「公証人」という法律のプロが関与するため、ほぼ確実に効力を発揮する(有効となる)
②公証役場にて安全に保管される(同意すればデータ化もしてもらえ、遺言者はいつでも謄本がもらえる)
③「家庭裁判所への検認申し立て」が不要なため、遺言者の亡き後、すぐに相続手続きを行える
それぞれ具体的に、その理由を見ていきましょう。
5-1.公的証書遺言を作成した方がいい理由①:作成段階で、「公証人」という法律のプロが関与するため、ほぼ確実に効力を発揮する(有効となる)
「公証人」は、裁判官や検察官あるいは弁護士として法律実務に長年携わった者で、公募に応じたものの中から法務大臣が任命した方々です。
法律についての専門的な知識を携えていることはもちろん、法的に間違いや解釈の余地が生じることのない正しい文書を作成する公証人が、中立的な立場で、遺言の内容に矛盾や法的に無効な部分が生じないように遺言書を作成してくれます。
もっとも確実性の高い作成方法と言えます(そして、自筆する必要が無いので、作成する遺言者の負担も低めです)。
5-2.公的証書遺言を作成した方がいい理由②:公証役場にて安全に保管されできる(同意すればデータ化もしてもらえ、遺言者はいつでも謄本がもらえる)
公正証書として作成した公正証書遺言の原本は、公証役場にて大切に保管されます。厳格に管理されるため、紛失や偽造、改ざんの心配がありません。
万が一公証役場が自然災害などに見舞われ、役場ごと遺言書原本が紛失してしまったとしても、公証役場以外の場所で電子化されてデータベースに残しているため、遺言者はいつでも「謄本」を請求することができます。
5-3.公的証書遺言を作成した方がいい理由③:「家庭裁判所への検認申し立て」が不要なため、遺言者の亡き死後、すぐに相続手続きを行える
公正証書による遺言書は、自筆証書遺言(※遺言保管制度を利用しない場合)とは異なり、遺言書の発見後に、家庭裁判所による「検認」の手続きが必要ありません。
家庭裁判所での遺言書の「検認」申し立て手続きとは、法定相続人全員に対して遺言の存在とその記載内容を(検認期日当日に)知らせ、検認の日時点での遺言書の状態(形状、追加修正等の状態、日付、署名)を証拠として保全するための手続きです。
偽造や改ざんを防ぐ証拠保全の狙いがあります(よく勘違いされますが、有効か無効かを判断する手続きではありません)。
なお、検認期日の案内は、法定相続人全員に通知されますが、検認期日当日は、申立人と遺言書の原本があれば、予定通り開かれます(逆に言えば、法定相続人が全員揃っていても、遺言書原本がなければ検認できないため、日を改めることとなります)。
この家庭裁判所での「検認」の申し立てには、まず「相続人確定」のため、遺言者(被相続人)の死亡から出生までさかのぼる除籍謄本や改正原戸籍謄本等の収集を行う必要があり、兄弟姉妹(第3順位)が相続人となる場合で、兄弟の人数も多く、行方もわからないような場合では、戸籍謄本等の収集を開始してから、実際に検認期日が到来するまで、おおよそ2~3ヶ月かかることも珍しくありません。
「公正証書遺言」では、この「検認手続き自体が不必要」なため、遺言者の死後、(遺言執行者のsh帝があれば遺言執行者により)すぐに相続の手続きに移ることができるのです。
6.公正証書遺言の作成後の注意点
公正証書遺言の作成が完了したからといって、「万が一のことがあるまで、安心が続く」というわけではありません。
遺言者の心情面や家族関係で大きな変動があった場合や、所有する財産の内容や評価について大きな変更があった場合には、作成済みの公正証書遺言の変更や加筆、場合によっては、一度全て撤回したうえで、再度作成し直したりする必要があるからです。
公正証書遺言の作成後に注意するべきことについて、大切なものをいくつかご紹介しておきます。
6-1.銀行の貸金庫には置かない
遺言者名義の銀行の貸金庫にだけは、公正証書遺言の「正本」「謄本」の両方を保管してはいけません。
公正証書遺言で指定した遺言執行者(または貸金庫を相続することとなった相続人)は、遺言者が契約していた(銀行の)貸金庫についても、各金融機関が定める相続手続きを踏んで、開披する権利があります。
しかし、公正証書遺言そのものが貸金庫の中にあったのでは、当然、貸金庫を開けることはできません。「正本」又は「謄本」のいずれか一方でも貸金庫外にあれば、公正証書遺言を用いてスムーズに手続きが出来ますが、その両方を入れてしまわないようにしましょう。
なお、相続人等が、公正証書遺言の存在を知っている場合は、遺言者の死亡の事実が記載された除籍謄本等を公証役場に提出することで、遺言書の有無及び遺言書がある場合のその内容については教えてもらうことができ、「謄本」についても交付してもらうことが可能です。
遺言者が、貸金庫を開けるための「代理人」を生前に定めている場合もありますが、この代理人の権限は貸金庫の名義人が生きている間に限られており、名義人が死亡してからは、代理人が貸金庫を開けることはできない点も注意が必要です。
有効な遺言書がない場合には、相続人全員署名押印(※ご実印)をした同意書(※全員の印鑑証明書の原本の添付も必要)を持って開けることもできますが、この場合は中身を確認するだけで、持ち帰ることはできないという場合もあります(※持ち帰れない場合において、内容物を持ち帰るには、別途内容物の取得者を決定した遺産分割協議書又は遺言書が必要とされます)。
せっかく作成した公正証書遺言を無駄にしないためにも、公正証書遺言は、遺言者名義の貸金庫にだけは置かないようにしてください。
もし保管する必要があるにしても、公正証書遺言を作成したことを信頼できる方に伝えておき、相続人等が遺言者亡き後に公証役場で謄本を取得できるようにしておきましょう。
6-2.遺言内容や遺言者の心情に変更があった場合
公正証書遺言を作成したあと、以下のような変更があった場合は、その内容により、公正証書遺言の変更や加筆、作成し直しをした方が良いでしょう。
公正証書遺言を作成し直す場合は、作成した公証役場に相談すれば、最初に作成した額よりも安く対応してくれる場合があります(公証役場に相談するようにしましょう)。
■ 遺言者の所有財産に増減があった場合
不動産価額が大きく変わったり、株価の変動などで金融資産に大きな増減があったりした場合、公正証書遺言で指定した相続内容のままでは、法定相続人の遺留分を侵害してしまったり、本来の遺言者の意図とは異なる結果を生じさせてしまう可能性があります。
公正証書遺言で公平に分けたつもりの遺産が、まったく異なった分配をされてしまうことになるため、相続財産に大きな変動があった場合には、公正証書遺言の変更や作り直しをするようにしましょう。
■遺言者の心情面での変更があった場合
遺言者の所有財産に大きな変動はなくとも、遺言者の心情面で変更が生じる場合もあります。
例えば、遺言書を書いたことを特定の相続人に伝えた結果、その特定の相続人が安心してしまったのか急に冷たい態度になってしまったと愚痴を聞いたこともあります。
とても悲しいことですが、こういった場合に備えて、遺言書を書いたことを伝えるときには、同時に「いつでも内容を書き換えることができる」ということも伝えておくと良いかもしれません。
なお、以下の場合には、公正証書遺言の変更や作り直し、公証役場への届出などは不要です。
・居住地(住所地)が変わった場合
・銀行の預金残高が変わった場合(※遺言書の記載を事前に工夫する必要があります)
・氏名が変わった場合 等
住所や氏名が変わっても、公正証書遺言の効力には影響がないため、安心してください。
6-3.遺言者よりも先に受遺者等が死亡してしまった場合
公正証書遺言の作成後、遺言者よりも先に遺言書の中で指定した相続人が死亡した場合は、公正証書遺言の(少なくとも)該当部分については、相続人の死亡時点で効力を失います。
なお、筆者(行政書士)においては、こういったことが生じる可能性を予め考慮し、予備的な文言を記載しておくことが基本であるため、当該項目は、予備的な(補充的な)記載が設けられていない場合に必要となる対応です。
筆者にも子がいますが、自分より先に子が亡くなることは、考えるのもつらいことですが、遺言書の作成においては、しっかりと想定して補充的に記載しておくと良いでしょう。
なぜなら、判断能力が低下した後では、公正証書遺言の作り直しや変更が出来ない場合があり得るからです。最初から想定しておくのが最も良い対策なのです。
6-4.遺言執行者が死亡してしまった場合
公正証書遺言の作成後、遺言者よりも先に遺言書の中で指定した遺言執行者(個人)が死亡してしまった場合は、新たに遺言執行者の選任を、相続人が家庭裁判所に請求することが可能です。
民法の条文(第1010条)には、次のように規定されています。
”遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。”
なお、筆者が10年以上に及ぶ実務経験においては、遺言執行者に指定されていた弁護士さんが80歳を超えており、既に弁護士の資格を抹消(引退)していたケースがありました。
「個人」を遺言執行者として指定する場合には、少なくとも「遺言者と比べて、年齢が大きく上になっていないか」は注意した方が良いでしょう。
まとめ
今回は、公正証書遺言の作成について、手順や費用など、必要な知識をわかりやすくお伝えしてきました。いかがでしたでしょうか。
不明な点やもう少し詳しく知りたい点がありましたら、遺言シェルパ名古屋を運営する「行政書士法人エベレスト」まで、お気軽にご相談ください。
この記事によって、あなたの意思を大切な人に伝えるお手伝いができますように。